14.良く言えば素直

 

「愛がない異世界でも生きるしかない」14話。

【良く言えば素直】

 

 

 

 

 

部屋に差し込んだ太陽の光に梓は眉を寄せて枕に顔をぐりぐりと押し付ける。起きなければと思うものの意識がはっきりするまでのこの微睡む時間がとても好きで、まだもう少しと短くも贅沢な時間を堪能する。布団を抱きしめるように丸くなれば完璧で──あ。

梓は目を開ける。霞む視界に見えた柔らかな布団に違和感を覚えて数秒、その理由が分かる。

 

 

「起きとくつもりだったんだけどなあ」

 

 

昨日はヴィラと過ごす最後の日だった。次の聖騎士の情報を手に入れておきたかったというのもあるが、お世話になりました、なんて挨拶でもと思っていたのだ。

んっと伸びをしながら梓は布団をかけてくれただろうヴィラに心の中で感謝と謝罪をする。

──まあ終わったことだししょうがないか。

梓は考えるのを止めてベッドからおりる。洗面台で顔を洗ってさっぱりしたあとはクローゼットに並ぶ見慣れた洋服に目移り。どれも好みな洋服は時々白那と行く城下町で手に入れたものが多い。

 

「白那、今日何してるんだろ」

 

すっかり白那と友達になったとはいえ毎日一緒にいる訳ではないため、そういえばと数えてみれば5日は顔を見ていない。こんな誘拐された土地で心置きなく話せる同郷の相手ができたなら毎日でも会いたくなりそうなものだが、どうしたものだろう。

梓は首を傾げるも、この距離感が好きなのだからいいかと納得する。白那は見た目こそ派手で言動も明るいものだが、あれで結構自分の意見をしっかり持っていてお気楽なだけじゃないのだ。べったりと依存するようなことはないし、一人で過ごす時間も大切にしている。梓自身もそうだからこの関係はとても居心地が良い。

 

 

──そう思えば誘拐なんてごめんだけど白那と知り合えたのは良かったなあ。……久しぶりに会えないかな?

 

 

梓はメイドに預ける白那への伝言を考えながら余所行きの服に着替える。白のロングワンピースにゆったりとしたグレーのかぎ編みニットカーデは物静かな雰囲気をもつ梓にとても似合っていて梓の良さを引き立てている。

 

女性らしい柔らかさはときに色香を放つらしい。

 

まだぼおっとしているらしい伏せられた睫毛に隠れた瞳。欠伸をして開いた口がちろりと赤い舌をのぞかせて最後唇を濡らす。垂れた髪を華奢な手がおさえて──

男は不覚にも魅入ってしまった。

そして花の間へ移動しようとドアに手を伸ばしたところで欠伸をした梓も、目に映り始めた景色に固まる。目の前にはドアを開けた状態で動きを止めた男がいた。知らない男だ。

若い。

最初にそんなことを思ってしまった。きっと目の前の男は聖騎士なのだろう。この部屋に入れているから間違いない。今日から過ごすことになる聖騎士……聖騎士?

現状からそうなのだと分かるが梓は思い切り眉を寄せてしまった。ヴィラと比較してしまうのがいけないのだろうが、目の前の男は高校生──あげても大学生ぐらいの年代に見える。それも悪ガキや不良なんて言葉を連想してしまう雰囲気だ。とてもじゃないが聖騎士なんて厳かな言葉が似合わない。真っ黒な癖のある髪は手入れが面倒なようで無造作(適当)に伸びている。そのくせよくよく見てみれば髪を伸ばしているらしく、後ろで一本三つ編みをしていて腰まで届いている。

初対面で失礼だとは思いつつも梓は、若い、の次に、髪を切ればいいのに、と思ってしまう。

 

 

「あ……っと、こんにちは?」

 

 

先に気を持ち直した梓がとりあえず挨拶をしてみたが返事はない。もしや「おはようございます」だっただろうか。なにせ寝起きなものだから時刻もまだ分からない状況だ。

 

 

「……予想と違った。傲慢なうえ高飛車にでるような感じの顔かと思った」

 

 

寝起きなものだから聞き間違いもしてしまうらしい。初対面の第一声とは思えない言葉が飛んできて梓は思わずなんだこいつという気持ちを全面的に出してしまう。男は梓の表情に気がついたが悪びれた表情は一切浮かべない。それどころか無遠慮に手を伸ばしてきた。

 

「うっわ、ほんとに触れねーんだ。マジで意味ねえじゃん」

 

梓の体を透けた手を見ながら男は面白そうに、そして迷惑そうな顔をして溜息を吐く。透けて触れることがないとはいえ手はまだ梓の肩あたりにある。

 

「いきなりなんでしょう。不快なんですが」

 

一歩下がって梓は肩を払う。そんな梓の反応に男は目をぱちぱちとさせたあとニッと子供みたいに歯を見せて笑った。

 

「怒ってやんの」

「はあ」

「でも事実だろ?魔力の回復もさせねー文句は言う、最低限、まあギリギリメリットっていえるセックスもできねー。お前、マジで意味ねえだろ」

 

男の暴言ともいえる発言に今度は梓が目をぱちくりする。そしてははっと小さく笑ったあと、にっこり、不自然なほど唇をつりあげて微笑んだ。

 

「魔力というのは一緒に過ごすだけでも移るという話ですが?自衛のため触られないようにする魔法はかけてもらいましたが、一緒に過ごすというのはしていますのでそんなこと言われる筋合いはありありませんね。誘拐した相手がはいはい頷くのがお好みなのは分かりましたけど、そちらがこの条件でもいいと言ったんですから文句は上へどうぞ。それとあればいいぐらいのメリットでしかないセックスのことですが、察するに誰でもいいんでしょう?仰る通り私は無理ですのでこのひと月は一人で済ませて下さい」

 

ああ、昨日望んだ穏やかな時間というのは無理そうだ。

梓はそう思いながらもスッキリしたと今度は心から微笑む。男が手を振り上げたような動作をしたのが見えたが、どうせ透けることだし梓の微笑みは崩れない。だがその表情は部屋に響いた笑い声に緩む。

 

 

「はは!こりゃいいや!あ、そっか透けるんだった。おもしれっ!」

 

 

笑う男はどうやら笑った勢いのまま梓の肩を叩こうとしたらしい。それは友達とのかけあいにするようなもので、続く男のはしゃぎっぷりに気が抜けてしまう。これは気を張っているだけ無駄な手合いのようだ。

 

「あーお前楽でいいわ。持ち上げなくていいし無駄にヤらなくていいし」

「それはどーも。あとどいてくれません?」

「あ?んだよって、ああ、飯?俺のもよろしく」

「嫌です。ご自分でどうぞ」

「あー?ああ、あー名前なんだっけ」

 

男は言いながら我が物顔で部屋に入ってソファに腰掛ける。男がちょうど足を組んだところでドアが閉まった。梓は眉間によりっぱなしの眉を触りながら溜め息を吐く。この男の声を聞いたときから嫌な予感はしていた。この声は昨日待合室で恰幅のいい神子と話していた聖騎士と同じものだ。関わりたくないと思っていたのにこれからひと月一緒に過ごす相手になるとは。

 

 

「……樹です」

「あ?あー……まあいいか。飯頼んだぜ、樹。肉多めな。あと俺はテイル」

 

 

テイル。

自分の言いたいことをべらべらと話すこの関わりたくないと思った相手の名前に聞き覚えがあった梓は今日一番嫌な顔をしてみせた。

また閉まったドアにテイルの笑い声が響く。

 

 

 

 

 


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