31.分かれた道

 

「廻り逢うそのときに」31話。

【とある願い、分かれた道】

 

 

 

森で覆われて鬱蒼とした道を歩いて数時間。ついに開けた明るい道に歓喜の声をあげた。

 

「あー、やった。やった、やった!!やっとまともな道に着いた… …!」

「……分かったから。落ち着け」

 

はしゃぐ私を晃が牽制するけど無視だ無視。走ると私を追いかけて動くショールをくるくるまわして大きくジャンプ。誰かが私を見たら踊ってるように見えるだろう。実際小躍りだ。

 

「あー。幸せ!」

「さっきまで死にそうな顔してたくせにな」

「だって、ねえ?ウジャウジャと言葉にもしたくないものがいたら ……ああ、もう。思い出しちゃったし」

「……」

 

からかうような顔する晃に平手打ちしたいような気持が生まれる。せっかく太陽の下に出れたっていうのに地獄を思い出させなくてもいいだろうに。くら―い森の下、彩をつけるようにカラフルな色をした昆虫や爬虫類節足動物が寄ってくるのを思い出してぞっとしてしまう。

思わず腕をさすれば口元をニヤリとさせる晃を見つけた。こいつ、やっぱり私を見て楽しんでやがったな……。

殺意を込めて睨めば晃は「やべ」と呟いたあと白々しく「そういえば」と話を切り出した。

 

「あー。そのなんだ?シリアとかザートって奴らに会う街ってシルヴァリアなんだよな?」

「そうだけどそれがどうしたの?」

「あれ見ろ」

「え?」

 

そんなに早いスピードで歩いてはいなかったものの、ちゃんと目的地に近づいていたらしい。晃が指さすほうを見れば街が見えた。恐らく住宅だろう色とりどりの屋根をつけた建物が川の流れる小山に密集している。

普通の街に見える。あの村のようにはなっていない、普通の街だ。

 

「着いたんだ」

「じゃねえの?まあ、ダラクが言った道を歩いてきたんだから間違うこともないだろうけどな」

「……ダラクとリオももう着いてるのかな」

 

晃が私を見たのに気がついたけど、気がつかなかったふりをしてシルヴァリアを眺める。川の水が反射しているのかキラキラと街並みは輝いていて、入り口らしい場所には人だかりが見えた。シルヴァリアを出入りする人影が点、点と見える。今までの旅ではあまり会わなかった、私たちと同じように旅をする人たち。あの点のどれかがあの村を襲った人だったりしないだろうか。

 

「行けば分かる」

 

晃の声にはっとして、目が合った。晃は私の反応に瞬いて首をかしげる。その反応に肩の力が抜けた。

ああ、ダラクとリオが着いてるかどうかの話か。

晃の言葉がようやく理解できて、笑う。

 

「確かにそうだね。行こっか」

「おう」

 

気分転換に大きく伸びをして溜息ひとつ。ぐずぐず考えてしまいそうな自分を置いていきたくて足早に進んだ。晃はお墓をあとにしてからそれに関係することはもうなにも言わなくなった。時々元の世界で話すような雑談をしながら歩くだけで、ほとんど無言だ。

きっとなにか私に聞きたいだろうし、なにか言いたいだろう。

そんないくつかのものを飲み込む表情を時折見つけてしまったけど、私は気がつかないふりをした。

 

目に映るのは街の入り口から動かない2つの人影。

 

だんだん輪郭をはっきりしていく人影は勿論ダラクとリオだ。地味に足に疲れを溜めるなだらかな丘を登りきれば街の入り口はすぐそこで、2人もすぐそこにいた。

街の入り口近くだからか、軽快な音楽やなにか楽しそうに話す声、 風の音水の跳ねる音生活音が、生き生きとした力強さを持って聞こえてくる。

なのに一枚壁を隔てたように遠い出来事のように感じる。

 

「っ」

 

声を出そうとしたけれど言葉が見つからなくて形にならない。ただ空気が口から溢れただけだった。ダラクとリオは目を細めてなにを責めるわけでもなく悲しそうに笑う。

そんな顔をさせたいわけじゃない。

情けない自分に俯いてしまったけど、真っ白な自分の手に鮮明に浮かんだ光景に負けないよう自分を奮い立たせる。顔をあげて2人をちゃんと見た。拳に力を込めて息を吸って──

 

 

「迷惑かけてごめんなさい。……ありがとう。お疲れ様でした」

 

 

声は少し震えてしまったけど、もう2人を見ても怖いとは思わなかった。それどころか目を見開く2人がおかしくて笑えたぐらいだ。呆ける2人の前にもう一歩近づく。そこでようやく2人ははっと我に返ったようでなぜか2人で顔を見合わせたあと微笑んで「ありがとう」とか「ほんとにな」と呟いた。

私は憎まれ口を叩いたほうを小突いていつものようなおしゃべりをする。それから私たちを見守っていた晃を呼んで、みんなで並びながらシルヴァリアに足を踏み入れる。

 

これからどんなことがあるだろう。

 

分からない。

だけどこうやって進むと決めたのは、間違いなく私だ。

 

 

 



 

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