15.新たな日常

 

 

 

 

これは私の日常。

 

 

 

 

 

 

 

「あら。起きてるなんて珍しい!」

「……おはよ」

 

部屋に入ってきた母は既に制服に着替え終わっていた私を見て目をぱちくりとさせた。私も私でお母さんが手に握りしめている丸めた新聞を見て驚いてしまう。今日はあれで叩いて起こそうとしてたのか……。いや、いつも起きない私が悪いんだけどさ。

 

「今日は雨かしらね」

「すこぶる快晴のようですけど。いただきまーす」

 

リビングに降りてからもチクチク小言を言うお母さんに適当に返しながら朝ご飯を食べる。目玉焼きとパンとサラダ。

……あいつはご飯食べるんだろうか。

未練を消すために生き返った──生き返ったというより幽霊になってこの世に戻ってきた真月光。いまなにをしているんだろう。

普通死んだ人間には会えないし、幽霊になって見ることも叶わない。

そんなバカげた話が現実になった私は暗い喜びを感じてる。

 

「いってきまーす、って……はは。おはよ」

「はよ」

「なんでいんの」

「え?すげえデジャヴ。今日一緒に登校しようって話したじゃん」

「そうだっけ」

「ひっで」

 

外に出たら京也が待っていて素で驚いてしまう。でも言われてみれば確かにそんな約束をした気がして笑って誤魔化した。京也と話しながら学校に向かうのどかな時間はいたるところに夏がいる。眩しいどころか痛いぐらいの日差し、揺れる木陰にアスファルトからのぼる熱。汗が肌を伝って朦朧とする視界。

昔と同じように笑う京也。

 

 

──ねえ、京也。アイツのこと覚えてる?

 

 

たまらずに沸いた言葉が口元に出かかるのをなんとか押し止める。

 

──アイツさ、幽霊になってまた私たちの目の前に現れたんだ。なんとさ、真月光って名前。そう!真月だよ。転校してきてやんの。びっくりだよな。

 

それでも喋りたくてたまらない言葉は頭の中を埋め尽くしてなにかのキッカケを待っている。

だって京也だって知ってていいだろ?京也だってアイツに会いたくてたまらないはずなんだし、もし逆の立場だったら……言ってほしいし。なにより京也は喜ぶはずだ。それに私たちはいつも3人でいて悩みがあれば聞き合って解決しようと一緒に悩んでた。

 

「今日も昼皆で飯食おうぜ!」

「……そうだな」

 

でもごめん、京也。言えない。

私はギリギリまでアイツがここに居れるようにしたいんだ。それ以上に、アイツがここに居続けられるにはどうしたらいいかそればかり考えてる。

……小百合ならなにか方法を知らないだろうか。

知ってるわけがないと分かってるのにそんなことまで考えてしまっている私を見て小百合はどんな顔をするだろう。教室のドアを開けていつもの騒がしい光景のなかから小百合を探す。小百合は既に自分の席に座っていて、目が合った。きっと誰かが教室のドアを開ける度、私を探したんだろう。

小百合は眉を下げて困ったように微笑んだ。

 

「……おはよう」

「おはよう」

 

なにを話そうかと思っていた。こんな夢物語のような現実、なにから話せばいいのか分からなかった。でもいざ会ってみると感じたのは大きな安心感だった。意味の分からない話を共有できてそれも暗い過去を知っていてくれる友人。何年経とうがすぐ側にありつづけた記憶を土足で踏み荒らされたようないまの状態に、追求もせずに笑ってくれる小百合は私にとっては救いだった。

 

「気づいたんだね」

「……そ、だね。ありがと小百合」

 

唇をゆっくりとつり上げて微笑む小百合に胸が震える。窓際にある私の席に移動しながら私たちはぽつりぽつりと話した。

 

「凛は手伝いをすることになったの?」

「うん。小百合もそうなんだね。小百合は凄いな……驚かなかった?」

「安請け合いは失敗だったって思ってるけどね。付き合うとか、ほんと止めてほしいんだけど」

「ああそうか。あれもそうだった……って、あれはなんの手伝い?」

「あーそれは「ひっでえなー」

 

微笑んだり眉をひそめたり戸惑ったりと忙しい小百合の話を遮ったのは真月だ。真月は不遜な笑みを浮かべながら私たちを見下ろしている。

 

「ひどいってなにが」

「手伝ってあげるって言ったくせに本心は嫌でしょうがないとか、そんな話聞いたら落ち込むんだけど」

「そんなこと糞ほども思ってないくせに止めてくれない?」

「口悪っ」

「うっさいわよ!」

 

ひきつった口元が怒鳴り声を吐き出すのは早かった。朝の教室に響き渡る小百合の怒鳴り声と真月の笑い声はクラスの皆の好奇の視線を集めるのは必至だ。

私は痴話喧嘩から視線をそらして空を眺める。これからの学校の日常になりそうな賑やかさに呑気な口が緩んだけれど、あまりの五月蠅さにどっか他所でやってほしいと身勝手な私の頭が愚痴を垂れている。

 

今日も暑くなりそうだ。

 

 

 

 


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