12.初めて小百合と会った日

 

 

オカシナ人

 

 

 

 

 

暑いという言葉が頭のなかを塗り潰す夏の日だった。

 

「えー怖っ!ってかキモくない……?」

 

校舎裏の物置に不穏を孕む声が聞こえた。

その声を聞いたとき私は呑気なことに、こんな場所に複数の人がやってくることに驚きつつ、お気に入りだった私の休憩場所がまたひとつ減ってしまったのが分かって落ち込んでいた。

教室でお昼ご飯を食べるのが嫌でお昼休みになるたび外へ出ていたけれど、日陰で静かな場所を見つけたと思った数日後にはこれだ。

もう大人しく教室で堂々とボッチ飯でもしようか……。

想像して、すぐに止める。突き刺さる視線を思うとやっぱりどんなに面倒でも外でご飯を食べたほうがよかった。

 

ガタッ

 

普段にはない大きな音がして驚く。なにかがぶつかったようにも倒れたようにも聞こえる音で、人がやってきたほうから聞こえた。なにかあったのかと立ち上がったところで笑い声が聞こえてくる。そしておかしな言葉も。

 

「ちょっと泣いてんじゃない?」

「流石にかわいそー」

「いやいやコイツ今お前のこと殴ろうとしてたから」

「え、こっわ!」

 

いじめを連想させた会話は続いていく。時々砂利を強く踏みしめる音や物が壁にぶつかる音が混ざるのを聞きながら私は呆然と突っ立っていた。

こんなことが本当にあるんだ。

そう思ったのと同時に胸糞悪さが募ってきて、いてもたってもいられなくなる。

 

「なにやってんの?」

 

お弁当を片付けてからそいつらがいる場所に移動すれば、複数の女子と男子がいた。みんな笑っている。そしてその顔の向く先には倒れて俯く髪の長い女子がひとり。

もう一度こっちを見る奴ら全員を見れば、そいつらはお互いに顔を見合わせたり視線を逸らしたりした。そしてその中の1人が口を開く。

 

「別にいいじゃん」

「関係なくね?」

「つか、うざいんだけど」

 

1人が口を開けばまた1人。

 

「で、なにやってんの?」

「ウザッ!」

 

私の質問に女子が笑った。諫めたのは男子だ。

 

「まあまあ、いいじゃん?ほらっなんにも知らないだけだって!」

「えー。卓って優しすぎるー!」

「な、坂上さん?……荻野小百合って誰か知ってる?」

 

ニヤニヤ笑いながら近寄ってきた男子の気持ち悪さに眉が寄る。話したくてたまらないのか鼻を膨らませていて、口からは笑い声を吐き出した。

 

「誰それ?」

 

無言でいるとどんどん距離を詰めてくるから答えれば、男子は嬉しそうに笑ったあと後ろにいた仲間と目を合わせる。

 

「うっそマジで知らねえのっ!?」

「えー!ありえなーい!」

 

きっとコイツラの誰かはクラスメイトなんだろう。私を坂上さんと呼んだ男子だってそうだ。でも元々人を覚えるのが苦手で入学して1週間だ。分かりゃしない。勿論荻野小百合だってそうだ。それなのにこの反応だ。きっと倒れて俯く女子が荻野小百合なんだろう。彼女は広がった笑い声を聞きながら体を震わせて砂利を握りしめた。

 

「こいつだよ、こいつ!」

 

そんな彼女を男子が蹴った。目の前で起きた突然の暴力に驚くなか、聞こえたのは荻野さんのうめき声と止まない笑い声。すべてが不快だった。

 

「アンタらいい加減にっ」

「坂上さん聞いてよ」

 

近くにいた男子が私の肩に手をまわしてきて囁いてくる。

 

「コイツってさあ──」

 

身近に見える笑う顔に背筋がぞっとする。なにを言っているのか分からなかった。キモイと言うコイツラのほうが私にはよっぽど気色が悪くて拳を作ってしまう。

誰とも関わらないようにしてきたのにこのときばかりは我慢ならくて、苛立ちのまま口を開こうとした。

 

 

「……うるさい」

 

 

唸るような声が聞こえたはそんなときだ。

振り返って声がしたほうを見れば、蹴られた横腹をおさえながら私たちを見上げる荻野さんがいた。腰まである真っ黒な髪に、かけている眼鏡さえ隠すほど長い前髪が特徴的な女子だ。目をひくのはそれぐらいで普通の女子にしか見えない。コイツラが面白おかしくはやしたてるような要素が荻野さんにあるとは思えなかった。

 

怒りで表情を歪ませる荻野さん、笑う女子と男子、呆然とする私。

暑いという言葉が頭のなかを塗り潰す夏のとある日。

 

私と小百合は初めて出会った。

 

 

 

 

 

 



 

 

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