10.友達

 

 

望んだ空間 

 

 

 

 

 

小百合が真月をみて、真月も小百合を見る。

2人とも綺麗なサラサラ黒髪で、なんだか本当にお似合いだ。そんな様子を見る野次馬に混ざった私。

ざわざわ賑やかな教室に紛れてただじっと眺めるだけ。クラスの皆は動揺と好奇心を膨らませて色々と噂をしている。私はそんななかにも混ざれないままで。

……笑える。なに考えてんだよ、私。

 

「え?なにマジで付き合ってんの?」

 

クラスの男子が面白おかしそうに真月に聞く。真月はソイツを見るとニッと笑って見せて、小百合の肩を抱きながら自分のほうへ引き寄せた。

 

「マジマジ。でも昨日すっげ頑張っておとしたとこなんだからあんま冷やかすなよ」

 

軽い返しに沸くクラス。女子も男子もその温度差は違えど叫び声をあげていて、これだと先生がきても五月蠅そうだ。真月の言葉を否定しなかった小百合は恥ずかしさからか肩の手をはらいのけて真月を小突くも、真月にはまったく効いていないようだ。

変なの、私。

こんなときに思い出したのは昨日の追いかけっこのときだった。真月は私を連れ出すとき私の手じゃなくて制服を巻き込むように握っていた。

私、ショックを受けてるみたいだ。意味わかんない。

 

……あれ?

 

誰かが話しかけてきたような気がして振り返ったけど、私を見ている人は誰もいない。小百合はまだ真月に怒ってるし、気のせいだろうか。

ああ、違う。これは幻聴だ。

小さい頃の私の声が頭のなかに響く。私の気持ちをみてなにを想ってるんだって嗤ってる。

『だから言ったでしょ』

……そうだね。私、なに楽しんでるんだろう。なにを期待していたんだろうね。

 

 

「はい、席に着きなさーい」

 

 

チャイムが鳴って現れた先生にクラスメイトはまだ興奮おさまりきらなかったみたいだけど散り散りになっていく。私も自分の席について、始まった授業のノートをとった。

おかしなことに朝あんなに楽しかったのが嘘のように気持ちは沈んでいる。やっぱり私は現金な性格だし子供みたいだ。

授業が終わってまた始まっても気持ちは沈んだまま。いつもなら休み時間は大抵小百合と話していたけど、小百合は真月やクラスメイトに囲まれていてとても話はできなかった。ぼおっと外を眺めるだけの休み時間。小百合が風邪で学校を休んだとき以上に寂しいのはなんでだろう。

 

結局、小百合と話すことが出来ず昼休みになった。

悩むのは昼ご飯をどうするかだ。いつも小百合と一緒に食べていたけれど、やっぱり付き合うってなったらご飯とか一緒に食べるもんなんだろうか。それなら私は小百合に断わって京也たちとご飯を食べたほうがいい気がする。だけど人に囲まれるあの2人に話しかけるのはなかなか勇気がいるし、正直先に屋上に行ってしまいたい。

ああでもよかったなあ。

小百合はずっと真月に怒っているみたいな感じだけど、なんだかんだ仲は良さそうだった。初めて小百合と話したときのことを思い出せば、小百合がいまこんなに砕けて話せている姿を見ると安心する。

 

 

「──凛。ご飯一緒に食べよ」

 

 

気持ちを整理して立ち上がったとき、小百合がお弁当を手に話しかけてきた。驚いて声が裏返りそうになる。

 

「えっと、アイツと食べなくていいの?」

「え?……いや、そんな必要ないってか、うん!別に大丈夫!」

 

アイツが誰か分かった小百合が勢いよく否定する。

 

「え?そんなもんなの?」

「というか昼休みぐらいゆっくりしたい!」

「それどういう意味?」

「わーお」

 

心からだろう叫びをあげる小百合の後ろに真月が現れる。そして始まった喧嘩を見ながらどうしようかと悩んだ。休み時間に遠くで見ていた光景が近くになっただけで、やりとりは似たようなもんだ。

あー、馬に蹴られて死ぬだっけ?小百合には悪いけどズラかろう。

悩んでいる間も昼休みは減っていくから後は2人に任せて屋上に向かった。そのはずだった。

 

 

「……あのさ、なっんでアンタついてくるんですかね?」

 

 

なのに教室を出てもずっと喧嘩する五月蠅い声が後ろからついてくる。小百合は嬉しいけどなんで真月もいる。だから振り返って直接文句を言えば、真月はにっこり笑いやがった。

 

「気にすんなって。小百合がどうしても屋上で飯食いたいっていうから。こんなに楽しみにしてんのに無下にできねえだろ」

「そうは見えないんだけど私のきのせいか?」

 

なんか変だ。教室でもそうだったけど小百合はちっとも楽しそうじゃない。クラスメイトに囲まれていたからとも思ったけど、いま階段をのぼる私たちは3人だけ。小百合はずっと口を結んで眉を寄せ俯いている。とてもじゃないけど付き合いたてのカップルには見えなかった。それなのに小百合は真月の行動を否定しないし、よく分からない。

 

「……それじゃ」

 

屋上に着いたし、いつまでもついてくる真月に手を振る。ここで別れたかったんだけど真月はまだ笑ったままだ。嫌な予感がする。

 

「え、一緒に飯食うつもりじゃないよな」

「おっそれいいな!一緒に飯食うか!」

「はあ?」

「辛いだろ、ボッチ飯」

「絶対ムリッつーか、ガチで嫌だ」

「お前ほんと言葉遣い悪いよなー」

「はいはい分かったから黙れ」

「まったく分かってねえっていう」

 

五月蠅い真月をしっしと追い払いながら一刻も早くコイツから離れようと考える。

確かにボッチ飯は辛いけどカップルに混じって食べるのは絶対にもっと辛いし、なにより今日はボッチ飯じゃない。やっぱり早いところ京也と落ち合おう。

真月の提案を却下すべく真月を諭す。

 

「大体お前小百合と付き合ってんだろ?なら2人でいろ。そういうもんなんだろ?」

「そういうもんって言い方が泣ける」

「は?」

 

心底腹立つ真月の返しに思わず拳を握ったところで救世主の声が聞こえた。

 

「お前らなにしてんの」

「「京也っ!」」

「ん?あ、そういや知り合いか」

 

真月と声がはもって思わず真月の顔を見てしまう。そこで思い出したのは昨日の屋上の出来事だ。そういえば真月と京也は一緒にご飯を食べていたようだ。

 

「まあなー。京也なら俺らも遠慮せず食えるな」

「は?」

「ん?」

「京也ごめん!コイツが勝手についてきて!勝手に!」

 

真月と一緒にご飯は嫌だ!その一心で京也に訴える。流石に京也から断れば真月もひくだろう。だけどそこは流石京也だった。

 

「じゃあ皆で飯食おうぜ!」

「え、いや真月はほらなんつうか」

「食おうぜ!」

「……うん」

 

明るい笑顔に負けて頷く。そうだった、京也はこういう奴だった。皆で楽しくが好きだし、気がつけない奴だった……。

 

「つか俺のほうも凛と飯食うって言ったらこいつらついてきたし」

「こいつら?」

 

京也が「こいつら」と笑いながら後ろを指さす。見れば2人の男子がいた。京也は悩んだあと2人の紹介をする。

 

「あー、鈴木大吾と井伏結城」

 

簡単な紹介に2人を見る。鈴木はにっこりと狐のように笑う細めの優男で、井伏は背の高いスポーツでもやってそうな雰囲気の奴だった。

初めて会うはずだ。

なのにどこかで会ったことがあるような気がして、違和感に不思議な感覚になる。

誰だっけ?昔、ずっと昔に会ったことが──

 

 

「大丈夫?坂上さん」

 

 

ぼおっとしていたらしい私を気遣う声が聞こえてはっとする。目の前に井伏がいた。私の顔を覗き込むために中腰になっている。短くてツンツンしている黒髪は井伏の顔を隠していなくて、心配そうに私を見る井伏の黒い瞳がよく見えた。

 

「う、わ。えっと、大丈夫、だ」

 

ビックリして上擦る声に井伏も驚いたように目をぱちくりとさせる。

 

「なんか坂上さん印象変わったな」

「印象?」

「去年同じクラスだったっしょ」

「え」

 

全く覚えてない。

そんな気持ちがダイレクトに顔に出てしまっていたらしく、井伏が笑う。

 

「おいおいマジかよ、俺泣いちゃうよ」

「へえ?マジか。泣いてみろよ」

「ひっでー」

「はいはいごめんごめん」

「あれ?謝られてる気がしない」

「だろうな!」

 

つられて私も笑いながら馬鹿話をする。こんなやりとりをしていて思い出すのはやっぱり昔のこと。アイツが死ぬ前までの無邪気な自分を思い出す。大口開けて笑って走り回って。親しい奴らにちょっかいかけて遊んだこともある。ソイツが大事にしている鞄を「奪い返してみろ」と憎まれ口叩いて走り回った。ソイツは走るのが遅かったから楽勝で、私は勝ち誇っていた。ソイツはいつもにこにこ笑っている。でもこのときばかりは笑顔でキレて、流石にやりすぎたと焦ってすぐに鞄を返したっけ。

懐かしい記憶。

ああ、やっぱり私は浮かれている。

小さな小さな違和感、視線。それに気がついていたのに気に留められなかった。注意していればよかった。もっと、もっと。

 

「あれ?なんかお前らすっげえ仲良くなってね?」

「「なんかすっげえウマが合った」」

 

井伏と手をあわせて京也に自慢する。五月蠅い私たちと違って鈴木はマイペース。

 

「はーい、とりま飯しようぜ。腹減りました」

「賛成」

「……うん」

 

真月と小百合も鈴木に賛成して座り込みお弁当を広げる。

 

「井伏ってさー、あ、井伏くんってさー」

「ブッ!なんで言い直した?!井伏でいいってか結城でいいし」

「あ、マジで?助かるわー。私も凛でいいから」

「え、やだあ恥ずかしい」

「あはは、きっも」

「……流石にそれは傷ついた」

「へー」

 

軽口叩いて、笑って、一緒に過ごす時間。

私は浮かれていた。

京也と昔みたいに話せるようになって私は浮かれてたんだ。馬鹿みたいに笑って、馬鹿みたいに騒いで、馬鹿みたいにつるむ。

また、そんなふうに過ごせると思ってた。

あの頃みたいに──

 

 

私、馬鹿だった。

 

 

 

 

 



 

 

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