08.夢のゆめ

 

 

昔はよく走ったなあ。

大声出して笑って汗流して、なーんも考えないでさ

 

 

 

 

 

昔の記憶だ。

私とアイツと京也はよく3人で一緒に遊んでいた。この日も汗が止まらない夏の暑い日に外を走り回って……くたくたになった私たちはグランドの横に建っている体育館でできた日陰に腰掛けていた。

 

「「「あっづい」」」

 

壁は熱されて熱くて、聞こえる蝉の鳴き声は更に周りを暑くさせる。足を撫でる土だけはほんのり冷たかった。私は少しでも暑さを和らげようと手うちわしたけどあんまり効果はない。

 

「誰だよこのクソ暑いなかオニゴしようとか言ったの」

「凛」

「止めろよ」

「言っても聞かなかった」

「マジでか」

 

だらっとする私たち、自分達では見苦しいとかそんなこと考えられないぐらい頭が暑さにやられていた。でもそんな私たちでもあそこは空気が違うと分かる場所があった。日差しがガンガンにあたっているはずなのにニッコリふわふわ微笑む女子2人が穏やかに会話している。

 

「四葉のクローバー見つけたー」

「やったー」

 

レースのスカートを風に泳がせて広がる楽し気な会話は私たち3人には微塵もないものだ。あの子たちは暑さを感じないんだろうか……。私は意味がないと分かっていてもまた手うちわする。やっぱり暑い。

隣で溜息が聞こえた。

 

「凜はアイツらみたいな格好に興味ねえの?」

「なに?あー……無理」

 

アンタの言うアイツらがあの子たちだってことが分かって首を振る。走るのが好きだからあの格好は駄目だわ。走りにくそう。

私の表情で答えが分かったのか、アンタは「残念」とそうは思ってない表情で言う。京也は京也でなにを想像したのか身体をぶるっと震わせている。アンタはもう一度あの子たちを見たあと、私を見た。

 

「興味あるな」

「笑えそう。ってことで明日着てこいよ」

「面白いこというねー?京也ちゃん」

「すみません」

 

アンタの言葉に便乗してからかってくる京也ににっこり笑って釘をさしておく。

 

「まあどうでもいいけどサッカーしようぜ」

「「賛成―」」

 

そして私達はろくな休憩もとっていないのにまた立ち上がる。

私たちは飽きもせず暑い太陽の下よく遊んだ。会話している間にひいた汗が日陰から出ただけですぐ肌に浮かび上がる。

眩しい多様、キラキラ、ギラギラ。

眩しい日差し、右へ左へ動いていく。

鳴き続けて止まらない蝉の鳴き声。

 

 

「凛、パスッ!」

 

 

アンタの声に合わせて他すべての音が消える。笑うアンタ、宙にふわりと浮いたサッカーボール。遠い場所にあるサッカーボールはやけにゆっくりと回転しながら私のほうに迫ってくる。

……あ、止めないと。

あともう少しでこっちにくる

……絶対に留めなきゃ。

私も走って飛んでくるサッカーボールを追いかける。絶対絶対絶対止めなきゃじゃないと──

見上げた先にあるサッカーボール。くるくる、くるくる。

まだ遠い、まだ大丈夫。

もう少し。

サッカーボールが天に昇りきって、ゆっくりと落ちてくる。ちょうど私の足元。

大丈夫止められる。絶対に止める。

サッカーボールが地面に、私の足に触れ──

 

ドッ

 

突然全身に響く鈍い音。はっとしたときにはもう遅くて、私の足元にはなにもなかった。私はまた失敗したのだ。

瞬間眩暈に似た感覚を味わって目の前の光景がぶれる。そしてブチッとなにかを消すような音が聞こえて場面が変わった。

 

私は呆然とその場に立ち尽くす。そこは以前にも見た真っ黒な空間でなにもない。アイツらもいなければ、校舎も、グラウンドも、太陽も、サッカーボールも、暑ささえもない。ただ頬を伝う汗が気持ち悪くて息が苦しかった。

ああ、なんだ──ただの夢だ。

 

「はは」

 

よくもまあこんな質の悪い夢を選んだもんだ。楽しい思い出に最悪な光景が重なって気分は最悪だ。でも、夢だった。

でもじゃあこれは?

夢だと分かる夢にしても意識ははっきりしている。しかも教室で見た夢と同じ感じだ。それなら夢の続きであの少年にも出会えるだろうか。真月に似た奴にも……いや、別にアイツはいいや。

昨日の昼間の追いかけっこを思い出して別に夢でまで会いたくないと思いなおす。うん、どうでもいいな。

ああ、早く目が覚めたらいいのに。小百合と京也と会って色んな話がしたいしさ──

きっと楽しいだろう光景を思い描いていたら、後ろから声がした。懐かしいこの声は聞き覚えがあって、すぐに振り返る。

 

 

「お前さ、なにやってんの?」

 

 

そこには死んだはずのアンタがいた。あのときから時間が止まったままののアンタの姿だ。なのに雰囲気は少し変わっていて大人びた微笑みを浮かべながら私を見上げている。

 

「……え。ああ、そっか夢だ」

 

呆然とアンタを見下ろしながら否定する。

でも変だな。いつもは思い出を辿るだけなのに、変なの。アイツはこんな大人びた感じじゃなかったし、口調だって違う。

 

「ほら見ろよ」

 

だけどそれがどうした。ああ、でも。

アンタが指さしたほうはなにもない真っ暗な場所で、アンタは私に何を伝えたいのか分らなかった。

 

「アンタは、なにを見てんだよ」

 

震える私を見上げた真月の表情は暗く、事故の直前を思い出させた。分からない、アンタがなにを考えているのか分からないんだよ。やっぱりアンタは私を恨んで──

 

「月が……少し、欠けてるだろ?」

 

本当はもう声を聞きたくなかった。なのに私の耳はしっかりアンタの言葉を拾う。アンタが指さすほうには相変わらずなにもなかったけど、それでも、真っ暗な場所を見続ける。

なんでだろう。凄く胸騒ぎがする。あのときのように何も考えられなくなっていく。

 

「なあ知ってたか?」

 

怖い。

私を追い詰めるアンタの言葉が怖くて目を閉じたとき、真っ暗な視界のなか優しい声を聞いた。私が勝手に怖がっていただけで、アンタはずっと同じ声色で話していたのにな。

 

 

「月ってさ、大体29.5日周期で同じ形に戻るんだってさ」

 

 

アンタは悲しそうに微笑んでいる。

私はなにも考えられなくなっていって、遠くなっていく意識のなかよく知っている数字を何度も叫んだ。

 

「昨日、満月だったの知ってたか?」

 

知ってるよ。……知ってる。

毎回、毎回、もう何年もずっと見てきた。ずっとお願いしてきた。

 

「28日後には満月だ」

 

その言葉を最後に私の意識はどこかに飛んでしまった。

『まんまるお月様にお願いしたら叶うんだって』

あのときの照れ臭い空気と楽し気に笑うアンタの顔が、懐かしい。

 

 

 

 

 

 



 

 

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