06.小さな一歩大きな一歩

 

 

話したかったんだ

 

 

 

 

 

屋上で真月と別れて教室に戻ったあと教室の中に入った瞬間、気のせいでは済まない視線が刺さった。異様な光景になんだと身をひいてしまう私にまとわりつくヒソヒソ話。

 

「さっきの授業真月くん出なかったね。……坂上さんも」

 

そう、注目集まる真月と同じタイミングで授業をサボッたことが原因だった。

最初は授業をサボッたことがない坂上さんがなんでサボッたんだろう?という疑問から始まって、そういえば真月くんがいないんだけどもしかして……と変にくくりつけてしまったらしい。そうなると尾ひれがついて、そういえば真月くんが初めてしゃべったとき坂上さんが困ってたときだったよね?困ってた?教室から出ようとしたけど私たちが邪魔で出れないって感じで──と話が広がったらしい。

どうやら私はやらかしたらしい。好奇心と妬み混じる視線にクソ暑いってのに冷や汗が出る。……うん。

 

「凛。ちょっと来て」

 

静かに笑う小百合が怖い。

──慌ただしい1日が終わって放課後、ぐったりして机にうつ伏せになる私に小百合は現状報告という止めを刺してくる。

 

「あーやーしーいーって噂が流れてるみたいよ」

「勘弁して」

「あいつが自己紹介から話したのは凛がドアの前で立ち往生してたときだし」

「たまたまだろ」

「愛の逃避行に」

「捏造じゃん……」

「そして極めつけは……ふう」

 

小百合は手遅れとばかりに首を振って私を見る。

 

「屋上から戻ってきた真月は男子だけとはいえ砕けて話すようになったから、聞けると思ったんでしょうよ。女子がアイツになんで授業をサボったのかって聞いたのよ。そしたら意味深に笑いながら『内緒』ときた。あれで噂は一気に広まったわね」

「ほんと勘弁してくれよ……」

「私には馬鹿にしたようにしか見えなかったんだけど、あの意味深且つミステリアスな笑みで女子はいちころ。そして水面下で始まった牽制と邪魔ものの発見と非難。勿論同じ時間に授業をサボッた女子は狙いの対象。しかもそいつは一度も授業をサボッたことがなかった」

「怖いです小百合さん」

 

爪楊枝でツンツンと刺すような視線とともに拾い聞きした話はどうやら間違いがなかったらしい。それが確かだって分かっても現状は良くならないのが残念だ。

確かに、結果的には授業を2人でサボッてたことになるけれど、皆が楽しそうに話す恋愛的な意味は一切ない。早く邪推を捨ててほしいところだ。半日見られ続けただけでこんなに疲れてしまうんだから、これが続かないことを切に祈る。

 

「まあ気をつけなってこと」

「ははっ……あー、はい」

 

少し怒っていたものの心配滲ませる小百合の言葉に笑って返す。

……そういえば今日ずっと小百合に心配かけっぱなしだ。帰りになにか奢ろう。

そんなことを思って小百合を見れば、椅子の背に腕を置いて行基悪く座る小百合が外になにかを見つけたようだった。

 

「じゃあゴメン。私先生に呼ばれてたから行くね」

「え?」

「先帰ってて」

「あー、っと、バイバイ?」

 

言うなり立ち上がって素早く荷物を持ち移動する小百合を呆然と見送る。先生に呼ばれてたのならもっと早く行かなくてよかったんだろうか。わざわざ私に報告するために付き合ってくれてたんだったら申し訳ないな。

教室を出ていった小百合を見送って、急に静かになった教室でぼおっとする。まだ教室には人がいて話す声も聞こえるのになぜだか凄く孤独な気分になった。

 

「……帰るか」

 

教室に居続ける理由もないし、私も帰る準備をする。今日は長い一日だった。なのにあれだけあった出来事がもう遠い出来事のように思えるのは、多分、真月が原因だろう。真月はあまりにもアイツに似すぎていて、馬鹿な私の頭は混乱しっぱなしだ。早く忘れなくちゃいけないのに、早くこんな馬鹿げた気持ちを捨てなきゃいけないのに。

いつも上に賑やかなクラス。賑やかな……。

 

「帰ろう」

 

私には関係のない世界だ。

私だけが楽しむなんて駄目なのに。アイツは私のせいで死んで、私はアイツが生きるはずだった時間を生きている。一緒に楽しみたいとか、もっと話したいとか、追いかけっこの時間みたいに大声で叫びたいとか──なにを考えてる。

教室を出て廊下を歩いて靴を履き替える。そんな1人で歩く時間はいつも自分の周りにある時間で安心した。今日はただおかしかっただけで、例外だったんだ。

それが分かったから、明日からもまたいつもの時間がやってくると思えた。

それなのにまだアクシデントは続くようで、急に誰かに腕を掴まれた。

 

「へ」

 

驚いて振り返るとそこには懐かしい人物がいた。閉まって手放した記憶にも関わらず、つい最近思い出してしまった人物。

 

 

「──凛」

 

 

京也。

久しぶりに真正面で顔を見た。走ってきたのか頬に汗が流れていて、呼吸が荒い。

 

「よかったまだいたかー」

 

京也は私を見てくしゃりと安心したように表情を崩して笑う。

ああ、本当に今日は一体どうしたっていうんだろう。こんなにも気持ちが揺さぶられる。

 

「……話したいことがあるんだ」

「きょ……や……」

 

眉は下がっているものの真剣な表情に心臓がドクリと音を鳴らす。

あの日が戻ってくる。

 

私が消して隠したあの日が──戻ってきた。

 

 

 

 



 

 

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