05.幼馴染み

 

 

●本日2話投稿

●三人称視点、京也視点

 

 

 

 

夕焼けが差し込む教室で三人の子供たちがなにやら騒いでいた。

 

「京也、お前の本気はそんなもんかっ!」

 

そう叫んだ一人の女の子は余裕を感じさせる笑みで目の前の息絶え絶えの男の子、京也を見ている。とっくの昔にそんな視線に気が付いていた京也は「ちくしょぉぉぉっ!」と唸りながら身体中を震わせ、内に眠っているだろう己の力を開花させようと諦めることなく右手に力を集中させている。

そんな必死の京也と余裕に笑う凛を眺めていた少年はプッと噴出した。これに怒ったのは京也だ。

 

「んなっ!わ、笑ったな!?俺がこんなにいっしょーけんめーなのに!」

「あははー」

「返事てっきと!」

「京也うっせー!」

 

1人違えど楽し気な空気だ。その日によって遊ぶ場所は違うものの彼らはいつも遅い時間まで遊んでいた。今日は3人参加の放課後腕相撲大会を開いているようだ。

 

「つか凛、お前女のくせして強すぎんだよっ!」

「京也~。お前もうちょっと頑張れって。いまこそ男を見せろよ~ファ~イ~トォ~……ま、無理だろうけど」

「っ!は、聞こえたぞ!?お前小声で無理とか言ったよな!」

 

少年の煽りに京也は大声を出しながら反論している。といっても少年は笑って受け流しているし、京也は選択ミスをしている。なぜなら戦いに集中していない京也を見る凛の表情はひどくご不満そうだ。それに先に気がついたのは少年で「あ」と一応彼なりの注意をする。

 

「あ?お、わっ!!」

 

制裁はすぐに下った。

凛が全力で力を込めて京也を倒しにかかったのだ。今まで全力を出していた京也と違って凛は半分ほどの力しか出していなかったから、突然の暴力的な力は京也の腕を思い切り机の上に叩きつけ鳴ってはいけない音を鳴らした。

 

「やっ!」

「ちょ」

「りいいいいいいい!らっくしょーーー!」

「づぁぁぁあああああ!」

 

雄たけびを上げて無邪気に跳ね飛ぶ凛とは逆で悲痛な叫び声をあげて床を転げまわる京也。審判だった少年はゴロゴロと転げまわる京也を見てそれは愉快そうに笑った。

 

「つーか京也よっぇーーっ!」

「うっせぇぇっ!凛が異常なんだよっ!!この怪力馬鹿女っ!!!」

「いええええええ!……は?怪力馬鹿女ぁっー!?」

「まんまだろ!」

「京也より頭良いし!」

「うっわっ!ガキみてぇなこと言ってるー……つーか怪力認めてる」

「んだと京也てめ!」

「あー、どうどう。凛って馬鹿でガキだよなあ」

 

賑やかな喧嘩をする2人はいつものことで、少年はお腹をおさえて笑っていた。けれど京也の言葉に驚き過ぎたのか笑うのを止めて京也を凝視する。ごくりと息を飲んだ。

 

「京也が人を馬鹿にしてる……」

「おい」

 

あんまりな少年の言葉に京也は声を低くするが、めげないところが京也の長所だ。自信満々かつ誇らしげに大声を上げた。

 

「へっへーん!俺はなあ!お前らより誕生日はぇーんだよっ!つまーり!俺、年上!崇め!敬えっ!!」

 

腰に手を当てて得意げな京也。

凛と少年は京也の演説を聞きながらなにか可哀相なものでも見たかのような表情をして、そっと視線を逸らした。そして崇め敬う年上が1番ガキっぽいことに小さな溜息を吐く。

 

「なにその反応っ!お前は俺の味方じゃねえのかっ!?俺を捨てるのかっ!ひどい!」

「なんでそんな昼ドラみてえな言い方すんだ!キメエわ!」

「こうなりゃ”──”俺と勝負しろ!」

「うっわ凛に勝てねえから俺とかー」

「っていうかお前だって凜に負けてんだろ!」

 

始まった京也と少年の言い争いに置いてけぼりになった凛が首を傾げながら五月蠅い2人の様子を眺めている。そんな凜を少年はちらりと見た。つられて京也も凛を見る。そして隣で溜息が聞こえたから視線をまた元に戻せば、少年が京也を見てゆるゆると小さく首を振った。

 

「だってあれ女の力じゃねえじゃん」

「あ?……ああ、まあそうだよな……つか凛はもう男だし」

 

真面目に、かつ気の毒そうにも悟りを開いたようにも話す2人。勿論凛はそんな2人を見て満面の笑顔だ。殺気を感じて2人が振り返ったときにはもう遅い。

 

「それってあれだよな?私に殴られたいってことだよな?」

「「なんで?!」」

 

彼らの末路は決定していた。

 

 

 

「──もうこんな時間か。帰るか!」

 

夕焼け滲む空を眺めて凛がそう言った頃には京也と少年はいたるところに擦り傷を作ってボロボロだった。あの手この手を使い、ときには協力して2人バラバラに逃げたりもしたが、結局2人は凜に捕まってボコボコにされていた。

 

「おう……帰ろう……」

「おう……そうしよう……」

 

遊ぶ楽しい時間はあっという間だ。もっと遊んでいたいけれどこのままじゃ晩御飯に間に合わなくなってしまう。3人は走り回っている最中に倒した机や椅子を起こして片付けを始める。その間は静かだったが一段落つくと、京也があっと大声を上げた。

 

「おい”──”!明日こそはぜってえ勝負だかんなっ!」

「へー明日土曜だぜ?」

「……あ!」

「京也バッカじゃーん!明日休みだししかも京也キャンプ行くんだろ!」

「っ!」

 

結局少年との対決が叶わなかった京也の提案を少年と凛が笑って否定する。しかも凛はかなり小馬鹿にした感じだ。ぐぬぬと口を尖らせる京也は案の定すぐに爆発する。

 

「っああああ!うっせえ!明日の、そのまた次の日の次の日だ!」

「月曜日って言えばいいじゃん」

「いいんだよ!それより”──”!分かったな!?ぜってーだぞ!」

 

叫ぶ京也を見て少年は楽しそうに笑う。

 

 

「はーい。了解、っと。しつけーな!」

 

 

少年の言葉に京也は嬉しくなって同じように笑った。

──ああ……、こんなことあったなあ。

楽しくて悲しい記憶。京也は胸にわく震える感情をおさえるために胸を握りしめた。この夢の結末は知っている。もう何度も見た。

 

「おうっ!ぜってー俺の勝ち!」

「そして最後に私が勝つ!」

 

小さい頃の京也が少年にガッツポーズを向けながら応えると、凜がすぐさま胸を張って応える。少年は「まだまだだな」と応え、小さい頃の京也は「なんでお前が言うんだよ」と笑って──本当に、本当にとても楽しかったのを覚えている。

──駄目だ。

京也は遠ざかって黒く塗り潰されていく記憶に手を伸ばした。けれどそれはもう手遅れで楽しい記憶はなくなってしまう。色のない記憶が次々に浮かんでくる。机の上に置かれた白い百合。嫌な噂が広がる教室。噂を否定してほしくて向かった凛の席には空の席。探し出して見つけたのは俯く凛の後姿。声をかけると泣き腫らした目と生気の感じられない表情がこちらを向いて、心臓がドクリと嫌な音を立てた。いつも京也と呼んで快活に笑う凛が笑い方を忘れたように口元を歪ませて言った。

『おはよう、京也くん』

凜はアイツが死んだ日にきっと一緒に死んでしまったんだろう。凜は別人になってしまった。

 

──ぱちりと目が覚めて京也はベッドから起き上がる。

 

久しぶりに見た最悪な夢に寝起きだというのに沢山汗をかいてしまった。凛と関りをほとんど持たなくなってからはたまにしか見なくなっていた夢。今日この夢を見てしまったのは、きっと昨日屋上で泣いていた凛を見てしまったからだろう。

休み明けに会ったあの日でも泣かなかった凛が屋上で泣いていたことは京也の心を大きく揺さぶった。そして、なんで泣いていたのかと沸く疑問と同時に思い出した真月になんとも言えない気持ちがわいてくる。

自分まで泣いてしまいそうになって京也は頭を抱えた。

 

 

「……凛」

 

 

泣いてた。

 

 

 



 

 

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