11.白那のアドバイス

 

 

「愛がない異世界でも生きるしかない」11話。

【白那のアドバイス】

 

ゆっくり進むね、2人とも。まだるっこしいですね。

 

 

 

 

 

もしかしたらお買い物は中止かな。

そう思っていた梓に声がかかる。振り返ればヴィラが眉を寄せ、疲れた表情で梓を見下ろしていた。

 

「あの神子は見つかった。いま他の兵士が護衛についている」

「ああ、そうなんですか。よかったです」

「後で落ち合うことになったから……お前の買い物を済ませよう」

「そうですか。……そうですねえ」

 

ヴィラの言葉に梓はどうしようかと悩む。白那の買い物についていきウィンドウショッピングがてら色々なものを見たかっただけなので、これといって欲しいものはなかった。だから特に済ませるべき目的の買い物が見当たらなくて梓は首をひねる。

助け舟を出したのは白那が見ていた露天の店主だった。白い髭をリンカニックに整えた老年男性だ。

 

「聖騎士さん、アンタそんなんじゃ駄目だよ。女性ってのはただ買い物の雰囲気を楽しみたいときだってあるのさ」

「そうそう、そうです」

「ほーらみてみろ。買うべきものを買うだけが買い物じゃない。思わぬ発見を楽しみながらの買い物が楽しいんだよ。なあ?」

「ふふ、その通りです。代弁してくれてありがとうございます」

「おおいいねえ。女性はやっぱりそうやって笑ったほうが素敵だよ。この城下町は沢山のものがあるからね、買い物を楽しんで」

「はい、そうします。あ、オススメのノートとペンってありますか?」

「ノートとペンかい?へえ、変わったご要望だねえ。ちょっと待ってご覧──ああ、あったあった。今置いているのはこの種類だけだね」

「こちらすべて貰えますか?」

「ははっ!太っ腹だ!」

「といっても──ヴィラさん、いいですか?」

「……構わない」

「買えました」

「はっはっは!」

 

迷いと不安を滲ませ振り返った梓を見てヴィラは眉間のシワを深くしつつ頷く。ヴィラも店主と同じ気持ちだったのだが、梓には分からない。店主が商品を袋にいれて梓に手渡そうとすると、ヴィラが支払いついでに袋を持った。

 

「ありがとうございます」

「……他の店も行こう」

「……はい、ありがとうございます。おじいちゃんもありがとう」

 

梓は内緒話をするようにこそっと店主に礼を言う。可愛らしい仕草に店主はご機嫌だ。

 

「やっぱり女性は華があっていいなあ。うちはいつもここら辺りでお店を出してるからまた来てくんな。好きなものがあれば調達しておくよ。勿論、ノートとペンも種類を増やしておくから」

「嬉しいです。……本があると嬉しいな」

「可愛い女性の頼みだ。私に任せておきなさい。それじゃあ、また。聖騎士さんがお待ちだ」

「はい」

 

手を振って店主と別れるとヴィラがゆっくりと歩きだす。人が混んでいるから気を遣ってのことだろう。梓は一応ヴィラとはぐれないように気をつけながら後に続いた。けれどあまり注意する必要はなさそうだ。ほとんどの人が梓を見るなり目を見開いたあと微笑んで道を譲ってくれるのだ。なにかに夢中になっていて梓が見えなかった人が通り過ぎ様肩にぶつかるぐらいのことはあったが、道は勝手に出来ていく。それは梓が女性だからだろう。

城下町は人でいっぱいだった。だけどほとんど男性か子供で、女性がいない。お店を楽しみつつ過ぎる時間のなか、女性を見たのは1度ぐらいのもので、シェントから聞いていたこの世界の事情は確かであるようだ。少なくともこの国は。

そして護衛がつく理由もなんとなく分かってしまう。ほとんどの人は女性を大切にしてレディーファーストをするが、その半分は欲をはらんだ目でじっと梓の動きを逐一見てくる。ロングスカートかズボンを履いてこればよかったと思う。

……白那は嫌な思いをしてはいないだろうか。まあ、白那なら気にもしないか。

 

「結局お前は最初の店で買い物をしただけだな」

「そうですね」

 

いい時間になってきたから白那との待ち合わせ場所に向かう最中、ヴィラが独り言のように呟く。梓は淡々と相槌を打ちながら大分慣れてきた城下町を眺めていた。

 

「お前は欲がないのか」

「……欲はありますよ。物欲なんていっぱいあります。これは気持ちの問題なのでお気遣いなく。気持ちの整理がつきましたら思う存分散財しますので」

「……」

「あ、白那だ」

 

どこからか自分を呼ぶ声が聞こえたような気がして待ち合わせ場所らしきところを見れば、白那が手を振りながら「樹」と叫ぶのが見えた。隣には兵士が2人いて、沢山の荷物を持っている。白那らしい。

 

「沢山買ったね」

「樹はすっくないよね。やっぱりなー」

「五月蠅いよ。じゃあ、そろそろ帰ろっか」

 

兵士2人は目が合うと微笑んでくれたが、荷物はなかなか重そうだ。なにせ袋を両手にひっさげながら机を持っていて、机の上には梱包された大きな包みがのっている。白那はまだ買い物がしたいと反論したが、最終的にはしょうがないなと溜息を吐いて諦めた。けれどどうせだからと、白那はヴィラと梓をみて挑発するような人の悪い笑みを浮かべる。

 

「あー折角気を利かしてあげたのにヴィラって駄目だよねー。樹も馬鹿だし陰険」

「……」

「うん、間違いないね」

 

突然の悪意ある言葉にヴィラは不快そうな表情をしたが、梓はクスクスと笑っている。驚いたのはヴィラだ。ヴィラには梓の考えていることが分からなかった。

そんな違いのある2人の反応を白那は面白そうに眺めている。そして自分が持っていた小さな買い物袋を兵士たちがもつ荷物の上にのせたあと、ヴィラの手を引っ張って梓から聞こえない位置に移動した。

 

「ねえヴィラ。きっと樹は飼われるのが大嫌いなんだけどさ、分かる?」

「……」

 

ぐっと顔を近づけて内緒話をする2人の距離はとても近い。眉を寄せた不機嫌な表情とはいえ白那はヴィラの顔を見て眼福だと唸った。

 

「あーやっぱカッコイイわーイケメンってなんでも許される。でも樹はそんなのどーでもいいの。だからイケメンでも頑張らないと見限られるよー」

「なにを」

「シェントから言われてるからこの偉い神子様が助言したげる。少なくとも樹は買ってやるって言われて喜ぶ女じゃないから。自分で稼いでお金を使うほうがよっぽど楽しめるんだろーね。まあ、私は奢ってもらったほうがハッピーじゃね?って思うけど」

 

白那はニヤリと笑うと話の最後に「お駄賃」と笑いを含ませながらヴィラの頬にキスをした。白那という女はなにをするのも突然らしい。目を瞬かせるヴィラに白那は「かーわーいーいー」と叫んでお腹を押さえている。

ヴィラは白那の相手をするのは止めた。この神子は兵士に任せよう。そう判断を下して梓の元に戻れば、なんと梓は穏やかな表情で兵士2人と談笑していた。兵士2人は訓練で使うような重さの荷物を持っているにも関わらず「余裕っすよ!」「こんなの訓練より軽いですからね」と軽口を叩きデレデレの表情だ。

 

「樹」

「……え?あ、はい」

「少し付き合え」

「え?白那は」

「これから買い物の続きだそうだ。また話そうと言っていた──それで、今いいか」

「……はい」

 

首を傾げる梓がようやくヴィラのほうに足を運ぶ。その姿を見て兵士たちは白那の買い物が続くと知ったときよりも落ち込んだ様子を見せる。少しだけ胸のつっかかりがとれてヴィラは僅かに笑みを浮かべる。そのまま思わず梓に手を伸ばしかけた。けれどすぐにはっとしてヴィラは梓にではなく露店で売っていたジュースに手を伸ばし、それを梓に渡す。

 

「え?」

「飲め。行くぞ」

「え、は、はあ。ありがとうございます」

 

梓が戸惑う間に会計を終わらしてヴィラは歩き出す。梓は白那がなにかを言ったのかと勘繰りながらヴィラのあとに続いたが、乾いた喉が潤う甘酸っぱいジュースはとても美味しくて梓の顔が綻んだ。

前を歩くヴィラは気がつかない。

 

 

 

 

 



 

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