10.ヴィラの懸念

 

 

「愛がない異世界でも生きるしかない」10話。

【ヴィラの懸念】

 

ひたすらヴィラが可哀想

 

 

 

 

 

 

夜の時間、もうそろそろ寝ようと思った頃だった。キイ、と音を鳴らして部屋のドアが開く。ドアのほうを見ればヴィラがいた。

 

「こんばんは。夜遅くまでお疲れ様です」

「……いや」

 

素っ気ない言葉を聞いて梓は微笑む。それが彼の性格なのだと分かっていると警戒には値しない。

ヴィラは梓がよくいる机まで移動して、ふと気がついた。本の量が明らかに減っている。本棚が増えたわけでもないらしい。

 

「ああ、読みたい本が読み終わったので」

「……魔法についての本か」

「はいそうです。女性は使えないんですね。残念です」

「そうか。……今日は随分と楽しかったようだ。他の神子と会ったそうだな?明日は城下町へ行くと聞いた」

 

驚いた。ヴィラが雑談をふってきた。

梓は目をぱちくりさせながら頷く。

 

「はい。久しぶりにいっぱいお喋り出来ましたからとても楽しかったですよ。明日は白那さんと城下町へお買い物なので今から楽しみです」

 

手を握りしめ小さくガッツポーズをとる梓を見てヴィラは困ったように眉を寄せる。片側つりあがった唇はきっと笑おうとして笑えなかった残りだろう。

 

「そうか。……明日の護衛は俺がつくことになった」

「護衛?」

「ああ。神子が城下町に行くときは必ず数人の兵士か聖騎士がつく。……聖騎士は魔法が使える7人のことをいう」

「なるほど、そうでしたか。明日は宜しくお願いします」

「ああ」

 

梓は無粋なことは聞かないことにして立ち上がる。ヴィラもまだ立ったままだ。こうして向かい合えばヴィラの背が高いのがよく分かる。梓の身長は160㎝だが、ヴィラの胸元より少ししたぐらいまでしか届かない。

 

「明日のためにもう寝ようと思ってるんですが、ヴィラさんはどうしますか?」

「……俺はもう少しあとで」

「……一応言っておきますともう抵抗はありませんよ?それにほら」

 

梓はヴィラの胸元に手を伸ばす。梓の突然の行動にヴィラはドキリとしたがすり抜けていく手に、思い切り眉が寄った。梓を見ればにっこり笑っている。

 

「触れませんし、なんの問題もありません」

「なら俺ももう寝よう」

「そうしましょう」

 

気遣いは無用だという梓にヴィラは不機嫌さを隠そうともせず応える。しかし梓は元から気にしていないのかベッドから遠くにある蝋燭の火を消しに行っていた。ベル型のスナッファーを被せるたびに部屋の灯りが消えて暗さが増していく。

暗くなった部屋のなか唯一照らされるのはベッドの隣にある机だけ。

 

「ヴィラさんってそんな重装備で寝るんですか?辛くありませんか?」

 

ヴィラはつい梓を見てしまったが、梓は穏やかに微笑んでいるだけだった。どうやら他意のない素朴な疑問だったようだ。ヴィラは無言で羽織を脱ぐ。

 

「消しますね」

 

オレンジに照らされた顔に不覚にも目を奪われるが、一瞬で消えてしまう。灯りのなくなった部屋に沈む静かな空気に梓もヴィラも動かない。梓はまだ目が暗闇に慣れていないからのようだ。ヴィラは目を瞬かせる梓を眺めたあとベッドに移動し布団を広げる。音を拾った梓がベッドを見るころには徐々に目は暗闇に慣れてきていた。

 

「入らないんですか?」

「……」

「すみません。もっと奥に行ってもらっていいですか?」

 

躊躇もなければ遠慮のない梓にヴィラは無言で従いながらベッドに横になり眉を寄せたまま天井を眺める。

 

「おやすみなさい」

 

隣で寝るのは神子。そのはずなのにこのなんともいえない現状だ。

確認しようと隣を見れば布団を巻き込んで丸くなって眠る梓が見えた。まだ寝入ってはいないようだが目を閉じて穏やかな呼吸だ。

──読めん。

ヴィラはこの奇妙な神子について考えるのは諦めて自身も目を閉じる。なにせ明日はシェントが言う変わった神子も連れて城下町へ出かけるのだ。訓練や実践よりよほど疲れることになるだろう。

そしてその予想は当たっていた。

 

 

「――あ、白那おはよー今日楽しみだねーあ、こちらヴィラさん。今日護衛してくれる人」

「護衛してくれる人って!シェントから聞いてる。聖騎士の1人なんでしょ?それを護衛してくれる人って!」

「ヴィラさん、こちらが白那です」

「そうか」

 

待ち合わせにしていたお城の入り口付近に白那は先に着いていた。朝、着替えながらもしや白那は昨日着ていたエリザベスの服と称したドレスを着てくるのではないかと危惧したが、白那はショーパンにプルオーバーと普通の格好だ。しかしその恰好を見て疑問を抱いた梓はちらりと隣に立つヴィラを眺める。帯剣している違いはあれど、黒のタートルネックに紺色のズボンとこちらも普通の格好だ。この世界でもこういう服が普通なのだろうか。それに美醜の考えはどうなのだろう。今まで会った聖騎士は全員格好良かった。

できる男は顔まで良いって?

隣に立つヴィラもそうだ。伸ばしているというより伸び切って肩にまで伸びている髪をひとつくくりにする彼は文句なしに格好いい。

その感想は白那も同じだったらしい。おお、と感嘆の声を出してヴィラを凝視している。

 

「ヴィラって超イケメンじゃん……。シェントもそうだけどやっぱこの世界の人レベル高いわ」

「ははは……。というかこの世界って不思議だね。そういうショーパンもあるんだ」

「ねー、それ私も思った。こーいうのある?って聞いたら大抵出てくるんだよね」

「……今までこの世界に来た神子の知恵とか要望で作られるようになったのかな」

「あーそれかも。あ、そうそうヴィラ、今日宜しくねー」

「ああ」

「シェントもそうだけどヴィラも超寡黙タイプ?」

「……」

「うける!ってかさ、城下町で色々買い食いしたいんだけどオススメある?というよりお金ある?」

「……問題ない」

「やったね!今日は楽しもー!」

 

するすると言葉が出てくる白那とほとんど言葉のないヴィラはやはり相性が良さそうだ。ヴィラが少々引けごしになっているのはご愛敬だが、傍から見ているぶんにはとてもお似合いにみえる。

実際はともかくとしてそういう相性が良い人と組ませたほうが摩擦は少なそうなのに、ひと月で交代とする神子と聖騎士のルームシェア。

 

 

「千佳みたいなことにならないようにするためなのかな」

 

 

アラストさんを想って怒りを露わにした千佳の表情は鮮明に記憶に残っている。

そりゃ好きな相手が一月毎に違う女性と過ごすことを課せられていたら気が気じゃないだろう。自分とアラストさんの関係を重ね合わせて他もこうなったらと思うはずだ。

それはそれで進んで魔力をくれるのだから良いような気もするが、それを良しとしないのはなぜだろう。

続けられてきた召喚のなか千佳のような人は少なからずいただろう。それなのに改善することなく今回もこの方法がとられたというのなら注意したほうがいいのかもしれない。もしかしたら改善してこの現状なのかもしれないのだから。

 

「樹行くよ-。ヴィラまじで喋んないから仲介して」

 

尊敬さえ覚える歯に衣着せぬ白那に梓は笑って、いつの間にか遠くに進んでしまっていた白那たちの元へ走る。近づくにつれて眉を寄せるヴィラの顔がよく見えた。

 

「お待たせしました」

「……いや。買いたいものでもあるのか」

「なんか神子だからなんでも欲しいもの買ってくれるんだて。太っ腹だよねーこの国。私色んなもの見てみたいんだよねー」

「……神子。頼むから俺から離れた場所へ1人で行かないように」

「ちょっ!樹聞いた?!俺から離れるなって!めっちゃキュンってしたんだけど。でも子供扱いしすぎだよねえー。そんなことしないしっ!」

「うーん、でも1人で行動はしないほうがいいとは思うよ?城下町に人が多かったらはぐれるかもしれないから気をつけようね」

 

それでも笑う白那に梓はお説教にならないよう気をつけながら神子まで召喚するようになった背景を白那に説き、ヴィラの援護をする。しかし白那はやはり笑ったままだった。

 

 

「樹までとかウケルッ!」

 

 

そして白那は城下町入り口に辿り着いた瞬間、目新しく賑やかさに満ちている光景に一瞬で我を忘れて走り去り人混みへと消えていった。

 

「……っ」

 

言葉なく驚き、戸惑い、怒り、落ち込み、そして近くにいた兵士に神子探しを依頼するヴィラ。

そんな彼の姿を見て梓はこのカップルが成立したらヴィラが胃痛で死ぬだろうなと予想しながら露店の商品を眺める。賑わいに混じる戸惑いや警戒、欲や熱を帯びた視線を背中に浴びながら梓はどうしたものかと苦笑いを浮かべた。

 

買い物は始まったばかり。

 

 

 

 



 

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