22.牽制

 

「廻り逢うそのときに」22話。

【欲しいもの、牽制】

知らない現実

 

 

 

 

 

 

もう会えないはずだったのに晃はいま目の前にいて触ることが出来る。おかしいことばかりだ。頭がついていかないことばかりが起きるせいで、もうなにが正解で当たり前で出来ることなのか分からなくなっていく。

私がいなくなって三カ月が経っていたと言う晃。ここで過ごした時間との違いから常識なくして考えれば時間の流れが違うということなんだろう。ファンタジーだ。だったら私含めて晃がここにいるのもその魔法の言葉ファンタジーでぜんぶ済む話。

 

「状況がよく分からないね。まずあっちで話さない?」

 

後ろから聞こえてきた言葉とともに強い力で引き剥がされる。見ればダラクが不機嫌そうに晃を見ていて、固い口調のリオも同じような表情だ。正直忘れていた。晃は晃でいま初めて二人を見たように驚いて、それから辺りを見渡す。 まるでココがどこだか分かっていないかのようだった。

 

なんでだろう。

晃も私と同じようにあの男に言われて来たんじゃないの?異世界を目指して来たんじゃないんだろうか。

 

急に嬉しさが影をひそめていいようのない不安が募る。

リオにひかれる手そのままに進みながら、戸惑う晃に従うように頷いてみせると、晃は無言で頷いて私達と同じように歩く。その顔は不安そうで、思わずあいたを手を伸ばして晃の手を繋げば握り返してくれた。不思議な気持ちだった。晃は変わらない。どの場所でもどんな時でも変わらない。それがどんなに嬉しいことなのか、晃は知っているだろうか。

 

「じゃあ行くよ?」

 

リオが魔法を唱えて、ここに来るまでにいた場所に一瞬で戻る。やっぱり転移は好きになれない。移動して足が地面に着く ときは少しふらついてしまうし、なにより怖い──あ。

はっとして隣を見る。なんの説明を受けずにこんな不思議な魔法を体験したら絶対驚くだろう。

予想通り息を呑んで突っ立っている晃がいた。凄く驚いてる。私だってこの世界に来たとき魔法でダラクに空中落下してたところを止めてもらい助けてもらったときには、それが魔法だなんて理解は出来ていなかったしただただ驚いていた。だから驚くのは当然だし分かるけど……、この顔はなんていうか……!うん、とっ、 得したかもっ。普段の冷静さからは考えられない間抜け面につい笑ってしまう。

 

「……笑うんじゃねえよ」

「いや、だって……!ぷっ!かっ、可愛いい、よっ!」

「アホ」

 

ぶっきらぼうに言う頬は赤い。感情表現が苦手なところも相変わらずだ。そんな変わらないところを見て安心するのに、さっき抱いてしまった疑問のせいで同じぐらい不安が募る。なにか間違えてしまったかのような、そんな不安がどうしても拭えなかった。

 

 

 

 

 

──パチパチと燃え上がる火が部屋を彩り熱を与えてくれる。そんな素晴らしい温かさを暖炉の前という特等席に晃と一緒に陣取って堪能する。ああ、幸せ。しばらくこんな日々が続くとか嬉しすぎる。

なんと晃のこともあってか私たちは一週間リガーザ二アに滞在することになった。これは嬉しい誤算。シリアさんたちに会う期限にも充分に間に合うし、寒い日々に身体が疲れきっていたから助かる。一つどころに留まるお陰で魔法のことも勉強できるし、なんだったら魔法の練習もできるはず。

ああ、したいことがいっぱいだ。でもまず一つ一つしなくちゃいけないことを片付けないと。

 

「話、続けるね」

「……頼む」

 

逸る気持ちを抑えながら、隣にいる晃の様子を伺う。晃は常識から外れた私の話にずっと眉を寄せていた。ひとつひとつ話を聞くたび考えこむところは真面目だなと感心するばかりだ。

晃はこの世界が前の世界とは違う異世界だということを知らなかった。

それに疑問は出るけれど、まずは混乱する晃に事情を説明するのが先だと思った。それはダラクたちも了承してくれて、両方の世界を知っている私が代表して現状を話すことになっている。

ここが異世界だということ、魔法が存在していること、闇の者とい うものが存在しているということ、この世界には四つの大陸と国があること、いま私は道中で知り合ったダラクとリオと一緒に旅をし ていること──とにかく話せるだけ話す。 そして、一通り話し終わったあとに大きな溜め息が聞こえる。勿論晃だ。

 

 

「つまりここは“俺らがいた世界”じゃなくて全く別の “ 違う世界”なんだな?」

「うん」

 

 

 間髪を入れずに答えると、晃は渋々頷く。

 

「分かった。……認めるけどよ、まだ分からねえ。お前はどうやってここに来たんだ?」

「え?ああそれは「待って」

 

突然の静止の声に振り返ると、にっこりと笑ったリオが腕を組みながら気のせいじゃなければ威圧的に言った。その隣にはダラクもいる。

 

「そこからは俺たちも会話に混ざらせてもらうよ?」

「だな」

 

二人とも有無を言わさない顔だ。どうしたものかと晃と顔を見合わせたあと、既に席に着いたダラクとリオの前の席に座る。なんともいえない空気だ。

ダラクはこの宿についてからほとんど話さずだたじっと晃を見ている。その視線が決して歓迎しているものじゃないことはすぐに分かる。でもそれはリオも同じだし、晃もリオとダラクを信用しかねているのかずっと二人を睨んでいる。私としては生きた心地がしない。

 

 

「……まずはさっきユキが話した内容の補足をさせてもらうよ。知っておいたほうがいいことだからね。

この世界オルヴェンはラミア・カナル・ラザルニア・キルメリアの四大陸に分かれていて、それぞれに大陸の名を冠する王がいる。

ラミアは一番小さな大陸だけど経済にも軍事面にも優れた魔法国家。 他と比べて魔法を使える奴が多いってだけだけど魔法国家は伊達じゃなくて、他大陸と比べて一番安定した平和な国かな。

カナルは貧しいけれど力強いものたちが多く集まる軍事国家だ。王にさえ力が求められて力こそすべての国だね。

ラザルニアは貧富の差あれど情報や物に人、なににも事欠かない勢いのある貿易国家。欲しいものがあるなら誰もが一度はここを目指すよ。

この三ヵ国は協定も結んでいて通貨も統一されている。

例外のキルメリアは関わらないことをオススメするよ。カナルとは方向性が違う力がすべての国で、逆に言えばなにをしても許される国だ。表立って生きていけない者がもっとも多く暮らしている」

 

慣れたように話される内容を晃と一緒に真剣に聞く。

一度ダラクから説明された話とほぼ一緒だ。これがこの世界オルヴェンの常識、ということで問題ないんだろう。安心すると同時に不安も覚える。

 

「ここ最近の動きといえば、キルメリアは相変わらず怪しい動きをしてるけどラミアが不穏な動きを見せたもんだから協定が崩れかけてるね。他国はラミアに対して不信感をあからさまに出してはいないけど、互いに腹の探り合いをしている状態。しかもこの頃は全ての国が軍事力に力を入れ始めたもんだから、一触即発の世界にまでなってる」

 

壊れようとしてる協定。しかももう外見上だけになっていて意味を成していない?一番環境に恵まれたラミアが見せた不穏な動きは、経済もしくは軍事力に恵まれていない国にとっては脅威を感じるものだたった?バランスを補うために全員が軍事力に力を入れ始める?

それが意味することは──

 

「お前はリオ、なんだよな?」

 

晃が思案気に俯かせていた顔を起こしてリオを探るように見る。リオはその顔を見て少し驚いたような顔をしたあと満足げに笑って答えた。

 

「ああ」

「リオはそれになにを言いたい。お前の説明は俺には危なっかしく聞こえる」

「危なっかしいというと?」

「国を作るのは人で、国がある場所の前提条件で土地があって、国をまわすのは金だと俺は思う。……あとは俺達が住んでいた世界ではあまりそうでもなかったが、この世界では自国を守るためにそれ相応の力を持っておかなければならないんだろう?だから軍事力も必要だろう。

つまり人・土地・経済力・軍事力があれば国は最低でも守られるんだと思う。だが人はともかく軍事力を経済で、経済を軍事力で補うことは出来はする。お前の説明によるとカナルは軍事国家だが貧しくて、ラザルニアは逆に経済は潤っているが軍事力に乏しい。そしてラミアは軍事力も経済も上だがその基盤となる魔法を使える者がいなくなればそれは反転するような状態で、キルメリアは危ない自由を掲げるうえに動向が怪しいとまできた。

ある程度とれていたバランスが一つの国の動向で一気に変わっていく世の中で、平和の維持だけじゃなくて獲りにいく可能性って低くはないんじゃないか」

 

 外見上でも作られた協定でさえ崩れてしまったら、それこそ、本当に。

不穏な動きを見せたラミア?キルメリアはキルメリアで相変わらず怪しい? それが一般的な常識レベルだとしたら、それからなにが考えられるだろう。

 

 

「それとももう始まってんのか。戦争、とか」

 

 

──抱いていた予感を晃は言ってのけた。

パチパチと聞こえる暖炉の火だけが私達の光景に動きを与えていた。

『──まあ、つまり運が悪いというかなんというか、ユキはこの世 界の均衡が危ういときに来たってわけだな』

そう言っていたダラクの顔を思い出す。リオ。リオは──

 

 「ああ、その通り」

 

目を細めて満足そうにニヤリと笑う。余裕を感じさせる笑みだった。そしてそれはなぜか晃を見たあと、自身の隣で表情を顔に表さないダラクに向けられた。

この話し合いはきっと私と晃のためだけのものじゃない。

 

 

 

 

 



 

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