21.贈り物

 

「廻り逢うそのときに」21話。

【欲しいもの、贈り物】

 

2章始まりました。よろしくお願いします。

 

 

 

 

あまりの眩しさに視界が白黒してしまって最初は何が起きたか分からなかった。それでも徐々に視界は慣れてきてその光景を映し出す。

空が光った。

そう錯覚させた青白い煌々とした光がいくつもの線となって流れ星のように空を焼きながら散らばっていく。吹雪く白い雪とあわさってとても綺麗だ。

この光景はきっと死ぬまで忘れないだろう。

そう確信させるほど圧巻の景色で、目が奪われるどころか呼吸さえ奪われる。強烈なのに幻想的で、目の前で起きていることなのに夢のような心地だ。

青白い光は連なる山脈のうちの一つの山から発生した。縮こまっていたものが耐えきれなくなって爆発してしまったかのような勢いで光が飛び出し、山を越えていった。一瞬で人の視線をかっさらってその場所を強く意識させる。青白い光はまだ空を飛んでいる。その光が発生している場所を中心として遠く、遠くへ。

 

行かなきゃ。

 

心の底から思った。好奇心だけじゃない切迫した感情が私を急かす。震えだした足は私に何かを訴えているようだ。

自分でもわからない自分の感情に振り回される私は危ない危ないと思っていたけれど、いよいよ危ない。ここまでくると危ないだけじゃなくて痛い。

冷静にそう思うのに足はもう動いていた。

私の動きを見ていままで同じように驚いて言葉を失っていたダラクが私を呼ぶ。そしてわざわざ止めようとしたのか手を伸ばしてきたから払い落とした。

青白い光の出どころは、ここに着いてすぐに感じた妙な視線を送ってきた誰かがいただろう場所だった。そのすぐ横にあった洞窟から、薄くなってはきているけど光が出ている。

 

 

 「あそこっ……!」

 

 

どう行けばいいかなんて分からなかったけど早くあそこへ行きたかった。心臓が激しく脈打って、早く早く早くと私の背中を押す。逆に引き留めるように頭はズキリと痛んだけど、それは無視して走り続けた。

だけど誰かに引っ張られて憚られてしまう。もどかしい思いに腹を立てながら振り返ると、そこには眉間にシワを寄せたリオがいた。

 

 「あそこ、なんだね?」

 

そう言ってリオは私が目指していた場所を指差した。なにか嫌なことでも思い出しているのかその顔は暗い。

なんで分かったんだろう?たった一度、それも一瞬指をさしただけの場所なのに……。

浮かんだ疑問に一瞬思考が止まったけど、強い力で手を握られてはっとする。

どうでもいい。それより早くあの場所に行きたい。

 

「うん」

「よし。ダラク!お前も来いっ!!」

 

そう言うが早いかリオは私を片手に抱きながら文様を描き、呪を唱え始める。抱き込むようにして身体にまわされたリオの腕の力は痛いぐらいだった。触れているリオの身体がすぐに分かってしまうほど鍛えられた身体だったから、ふいに数日前にリオが言っていた “大切な子”を思い出す。なんだか胸がキュッと締め付けられた。

 

「ユキ。きをつけなよ」

「あ……、うん」

 

今回は初めて転移したときのように徐々に身体は消えていかず、一瞬で目的の場所へと辿り着いた。遠めにも見えた洞窟がいまはもう目の前にある。

 

前とは違ってなんで今回は一瞬で来れたんだろう……?

 

ダラクも同じことを思っているんだろうか。訝しげにリオを探るように見ていた。だけどリオは洞窟から全く目を逸らさない。高さ七・八メートル幅四・五メートルぐらいと予想以上に大きい洞窟は、ついさっきまでここから光が出ていたのが信じられないぐらいに暗くなっていた。風が絶えずヒュオオオオッと擦るような悲鳴のような音を立てながら洞窟の中へと飲み込まれていく。

私はリオに抱き締められたまま動かずにその様子を見ていた。目を離すことが出来なかった。ここに来る前に通った洞窟の中でも感じたデジャヴが何度も頭の中で蘇っては消えていく。なにか急かすようにノイズ流れる映像さえ頭をよぎって頭がパンクしそうになる。

この感じを私は知っている。

 

 

「あ」

 

 

変だな。

私は見たことがある。この場所を知ってる。

──私を抱くリオの手に力がこもった。そしてリオは洞窟から目を離さず言った。

 

「なにか来る」

 

その声で緊迫感が増す。リオもダラクも動かない。それほどまでに警戒してる。それが分かるのに──私の頭を占領してる想いが、私を動かした。身体にまわされていたリオの腕を押して離れる。そしてようやく洞窟から目を離して私を見た視線から逃れるように、更に後ろで聞こえるダラクの静止の声も振り切って、浮き足立った足で洞窟へと向かった。

 

 

行かないと。 早く行かないと。

 

 

ジャリッ

乾いた砂を踏む音が聞こえた。とたんに一際心臓が高鳴る。

ああ、変だな。なんでこんなに震えるんだろう。

音が聞こえる。近づいてくる。誰かが、なにかがすぐそこまで来ている。おかしいな。もう見えてもおかしくないのに真っ暗でなにも見えないや。ねえ、早く、早く……っ!

暗い大きな口から、ぬっと影が伸びて形を作る。足だ。その形からして人間であることは間違いない。身体が、心臓が震える。

 

 

 

誰?もしかして──

 

 

 

……もしかして、ってなんだろう。

頭がズキズキ痛む。誰かが私を呼んでいるのは確かなのに誰か分からない。ああ、なに?なんなの。私はどうしちゃったんだろう。頭がおかしくなりそうだ。私は──会いたいだけなのに。

 

 

「そこにいんの、誰だ?」

 

 

……え?

聞こえたのは言葉で、男の声だった。それは分かったけど理解しきれなかった。

この声って。

聞いていて心地良いその声に思い出しのたのは懐かしい人。ありえない。慌てて頭からその人を消す。そんなことある訳がない。

そして男はついに洞窟から姿を現した。男の顔が暗闇から抜け出して外の光を浴びる。陽の光に目が眩んだのか男の眉間に眉が寄った。懐かしい表情だった。顔に触れた雪に気がついて「さっむ」と小さく独り言。この寒さを思えば随分薄着だ。

 

今更寒さに気がつくなんて馬鹿じゃないの?

 

悪態をつきたいのに声が出ない。吐き出せなかった言葉の代わりに、息をゆっくりと吐き出す。 

 

少し髪が伸びたね。

 

細長い切れ目のすぐ上にまで届いてる。ああでも独特の優しい温和な空気は変わらないね、晃。

晃が目の前にいる。

……本当に晃だろうか。嬉しいのに信じられなくて、ただ凝視するしかできない。

 

 

「え?」

 

 

光に慣れたのか晃は一度瞬きをしたあと目を泳がせて、その目に私を捉える。大きく目を見開く晃の顔は普段からは想像できない表情だ。私と同じように声が出せないみたいでじっと私を見ている。でも、口の動きで私の名前を呼んだことが分かった。もう嬉しくてどうにかなりそうだ。目の前にいるのは間違いなく晃だ。

 

でも、なんでここに晃はいるの?どうやって来たの?なんで?

 

聞きたいこととか言いたいことが混ざってごちゃごちゃになる。長い時間だった。

だけど晃が叫んだ。

 

 

「ユキッ!!!」

 

 

晃が走ってきて、気がつけば私も走っていた。積もっていた雪が足をとって走り辛い。涙が浮かんだと思えば流れて止まらない。

 

「晃っ!!!」

 

なんでこんなときに限って身体は速く前へと進んでくれないんだろう。遅い身体を持て余して私はまだ埋まらない空間に手を伸ばす。残りの空間は晃が全て埋めてくれた。強い力で手首を掴まれた瞬間、前へと引っ張られた私は晃の腕の中にいた。触れた。幻じゃなくて確かに晃だ。晃の存在を確かめる為に思い切り手に力を込める。どんなに手を伸ばしても背中にまわした手はせいぜい指が触れるぐらいにしかならない。いつのまにか逞しくなってしまった大きな身体に抱きしめられて感じたのは強い安堵だ。

 

「晃、晃っ……!」

 

込み上げてくる嗚咽をこらえながら叫ぶ。色々な感情が頭の中でグルグル回ってしまっているせいか涙が止まらなかった。晃が私の両頬をその手で覆うようにして掴んで私の顔を覗き込んでくる。久々に見た顔はどこかやつれているような気がした。

 

「ユキなんだな?本当にユキなんだよな!?」

 

親指で涙を拭ってくれる晃は泣きはせずとも今にも泣きだしそうな顔で私の名前を呼ぶ。

 

「うんっ……!私だよ。こ、う。晃」

 

この世界に来てから積もりに積もっていた不安が、晃がいるだけで一気に和らいでいく。気がつかないうちに私は神経を張っていたんだろうか。糸をプツンと切ってしまったかのようにただ泣いた。晃は切なそうに目を細めながら、また溢れた涙をそっとすくってくれた。

 

「急にいなくなんじゃねえよこの馬鹿……っ!どれだけ心配したと思ってる!」

 

本当に心配させてしまったんだろう。

やっぱりやつれていたのは気のせいじゃないみたいだ。晃はまた涙を浮かべた私を見てか苦笑いをする。私は申し訳なくって顔を歪ませるしかできなかった。

 

 

「……ごめ、んなさ、い」

 

 

決別してここに来たはずだった。だから謝るなんておかしいのに謝罪しかでてこなくて、高ぶった感情はまだ治まらない。なにか他のこと、もっと大事なことを言わなきゃならないはずなのに、分からない。

だけど晃の搾り出すような掠れた声に思考が止まる。

 

 

「三ヶ月もお前なにしてたんだよ……っ」

 

 

晃の表情にそれが間違いではないことが分かる。

私がこの世界に来てせいぜい一ヶ月未満しか経っていないのに、前の世界では三か月が経っている……?

 

ああ、確かに“この世界”は“異世界”なんだ。

 

 

 

 



 

カラーミーショップなら、

販売手数料0円。
月額900円(税込)からネットショップ運営ができます!

 

 


 

 

ブクマや足跡など、応援よろしくお願い致します♪