17.恵みの雫

 

「廻り逢うそのときに」17話。

【戸惑いと誘惑、恵みの雫】

魔力に惹かれるもの

 

 

 

 

 

 

光が、光が欲しい……っ!

 

 

一歩間違えれば中二のような叫びを心の中で叫んでしまう。本心だった。私はここ最近で太陽がどんなに素晴らしいものなのかということを知った。

 

それを説明するには少し遡らなきゃいけない。

 

リオという新しい仲間が増えてから向かったリガーザニア。楽しい楽しい歩き続ける旅だ。もう出発してから2週間は経過したと思う。

思うという曖昧な表現になってしまっている理由は森のせいだ。いま歩いている森が空を覆うほど広く大きいせいで陽が遮られて四六時中薄暗い。陽が差すときは外で風が吹いているらしいときだ。幾重にもなった葉がザワザワとおどろおどろしい音を立てながら暗い森のなかに光を運ぶ。これが眩しい光だったら神秘的な光景にも見えて心が慰められるだろうけど、淡い微かな光のせいで「あ、ちょっとここ明るい?」ぐらいの感情しか抱けない。本当に森の中は暗いのだ。

 

ずっと歩き続けていればすぐに朝か昼か夜かも分からなくなってしまう。時間の感覚が狂うのはなかなか怖い。ダラクが地図を読みながら進行方向を確かめてくれているから安心だけど、これがもし一人だったら……ぞっとする。

 

森に入った当初は初めてのこの空間に興味津々で、かなりこの環境を楽しんでいたけど、いまはそんな時間があったことが信じられない。拷問だ。これは辛い。

時間が分からなくなっていく空間、歩けど歩けど同じ景色、気分まで暗くなって――終いにはこれだ。ああ、見つけなくてもいいのにまた見つけてしまった。

すぐ近く、斜め前にある木の上だ。

 

奴が動き出さないかしっかり見ながら足早に進む。

 

ここは薄暗いだけではなくジメジメとしていて、私がイメージする密林と同じような雰囲気だ。これから雪国に向かうっていうのに自然形態がどうなってるのか分からない。リオが言うにはこの森は魔の森で、名前の通り魔力が働いていて普通と異なる点がいくつもあるのだそうだ。周りを囲う木々の大きさをはじめ外の影響を受けないこと、道を外れると目的地とまるで違う場所へ連れだされること、魔力が濃密に溜まっている地点など魔法が一切使えない場所が存在していること、隠された場所があるなんてものがよりどりみどりらしい。

 

なにそれ楽しそう。

 

なんて思ってたけどよくよく考えたら恐ろしいわ。正しい道なんてまったく分からない。ダラク凄い。魔法あるこの世界でもダラクは地図とコンパスを使い道を進む。本当に凄い。これをいつか自分が出来るようになるなんて考えられない。いや、出来るようにならないといけないんだけど……うん。つ、次やってみよう。 うん。そうだそうしよ――っ!

 

「ぃ、う」

 

上げそうになった悲鳴を押し殺して、進む。

あいつが……っ、アレが!奴が!飛んできた!!

さっきまで斜め前の気にいたくせに、急になんの前触れなく手を伸ばせば触れそうなほど近くに飛んできた。なんで!?なんでわざわざこっちに来るの!?

ソレの名前は分からない。

りあえず、なんていうかムカデと蛇が合体した奴で、恐ろしいぐらい気持ちが悪い。胴体はヌメヌメテカテカした蛇なのに そこにムカデとまったく同じあの何十もの足が生えてるのはどういうことだろう。キメラ?ち、違う。駄目だ。混乱してる。 それになんで亜熱帯とかそういうジメジメした場所に住む生き物は色がけばいんだろう。なんで赤と青と黄色なの?お前……。頼むからこっちに近づかないでほしい。本当にお願い。

 

「ああ、そいつ大人しいし人に危害は加えないから安心だぞ」

「それは、どうも、助かる情報、ありがとうございます」

 

こんなことは慣れてるんだろうダラクが振り返りながらほがらかに教えてくれる。五月蝿いわ。まったく嬉しくない情報、本当どうもありがとうございますっ!

これは私の心の問題だ。例えなんら害がない性格だろうが、万が一にも私に向かって飛んできたなら全力で使えもしない魔法を使って戦う所存だ。半狂乱になれる自信がある。虫とか甲殻類とか、とりあえずカサカサする系と黒光り系と飛んでくる系はアウトだ。

 

でもそんなことリオとダラクに言えなくて、我慢に我慢を重ねて平気なふりをしてきた。

だけどもう無理だ。

 

前の世界でもいたようなものだったから、嫌いだけど、まだ我慢できたんだ。なのになんで?奥に進めば進むほど禍々しい奴らが増えてきてる。

え?なに?あれはまだ子供 ?大人は大の男2人分の大きさ?……は? 

ダラクが何故か楽しそうに奴らの説明をしてくれる。ご丁寧にまだ私が発見していない奴らを見つけて紹介してくださる。え?なにこ いつ殴られたいんだろうか?

苛立ちに奴らから気がそれたのも束の間、背後から聞こえた音、というよりも今も聞こえる音に現実に引き戻される。

 

べきべき、ばき ばき、ぐちゃ、ぐちょ。

 

ぜんぜん良い予感はしない。見ない見ない、見るな見るな。必死に言い聞かせるのに、好奇心にちらりと覗き見してしまう。予感は素晴らしいほど正しかった。さっき見た奴が、この森で見る生き物で私的に見た目クリアしている動物(ナマケモノとウサギと 亀を足したような奴)を食べていた。

……早くこの森から出たい。

 

「それなら予想よりもペース速いから後一週間ぐらいでリガーザ ニアに着くぞ」 

「……へ?」

「よかったね、ユキ」

「うわ、わ、わー」

 

無意識に呟いていたらしい願望に返ってきた思いがけない答えに呆然とする。グロテスクなバックサウンドが気にならなくなった。

 

「まだ喜ぶのは早いよ、ユキ」

 

不穏な忠告に緩みっぱなしだった口元がひきつる。リオの楽しそうな顔を見るにそれは本当のことなのだろう。

 

「はは、頑張る、よ」

「うん。頑張れ」

「ほらユキ、あれまだ見たことないんじゃねえの?」

「あはは、黙れダラク」

「いってえなー」

 

楽しそうに子供みたいに、絶対に私が嫌がるだるだろうことを見越してグロテスクな生き物の居場所を教えてくるダラクに蹴りを入れる。痛いとか言ってるけど嘘だ。もっと力を込めるべきだったか ……。

凝りもせず新しく発見したグロテスクな生き物の説明をするダラクをどうしてやろうかと悩む。……無視が一番か。もうこれ以上自分が嫌いな生き物達の常識はもとより豆知識まで覚えておきたくはない。

 

「そういや、リガーザニアに行くことになったのって、リオが言 ったからだよね……なんで、行きたいの?」

 

気をそらしたくて隣を歩くリオに話をふる。

リオは横目でちらりと私を見たあと、前を見た。前には楽しそうに歩くダラクがいる。ああ、 あいつ蹴りたいなあ。

 

「ちょうどそこに探してた文献があるって情報が入ったんだ。といっても、薬の製造だとかなんだのっていうあんまり面白くもなさそうなやつだけどね」

 

困ったようにリオは笑って肩をすくめる。

流石魔導師、ということだろうか。

 

「そうなんだ。魔導師って大変だね」

 

なにに対して苦笑しているんだろう。

リオは少し眉を寄せて視線だけまた私によこし、すぐに逸らした。そしてやっぱり目の前には楽しそうに歩くダラクがいる。随分とまあ、ここ最近はじめてみるぐらい上機嫌なことだ。そんなに私に苦手なものがあることが嬉しいんだろうか。 

ん?

ぽん、と頭の上にのった手がグロテスクな生き物じゃなくてリオの手だと分かったのは、暖かくて優しい触り方だったから。そこに加えて体温だけじゃない温もりが肌を伝うと同時に、身体の疲れがぐっと和らいだ。リオを見ると後光が見える優しい表情で微笑んでいる。

おそらく、魔力を分けてくれたんだろう。それか回復魔法だ。

同じ系統の魔力を持つ人同士が魔力を分け合うと回復するということも手伝って、リオがくれた魔力はすんなり私の身体に馴染んだ。なんて有難い。

 

ああ、早く魔力をコントロール出来るようにならないと。

 

魔力があるっていってもコントロールできないんじゃあ、なんの役にも立たない。少しでも使おうもんなら加減を間違えてひどく疲れる羽目になる。しかも一歩間違えれば疲労追加だけじゃなくて国一つ滅ぼしかねないんだからやってられない。

 

「ありがとう、リオ」

「どういたしまして」

 

視界に映る騒がしい奴との対比もあって、リオがとんでもなく素晴らしい人に見える。 

そこからはリオの手助けもあって、今日の寝床を見つけるまで少し余裕を持って歩くことが出来た。よかった……。

 

 

「んじゃ、リオ頼む」

「分かってるよ」

「ありがとう、リオ」

「気にしないで」

「……まあいいけどよ」

 

 

私とダラクとじゃあからさまに違う態度にダラクが苦笑を浮かべる。 逆の場合はダラクも同じような態度をリオにとっていることは気がついてるんだろうか。見ていて少し和む。

自分の寝る場所を作って火床を作りながら傍観している間に、リオは話しながらも保護魔法をここら一帯に張ってくれた。この保護魔法のお陰で私はこの森で生きてこれたといっても過言じゃない。

この素晴らしい魔法はあのグロテスクな生き物を寄せ付けない、入らないようにしてくれているのだ。発動した場所から広がっていくから、保護魔法の範囲内にいた生き物は吹き飛ばされるという結構荒っぽい魔法らしいけれど、普通に過ごしている彼らに酷い仕打ちとか思わなくともないけれど、私は転移と同じくこの魔法を絶対に極めるつもりだ。この鬱蒼とした森のなかなんの心配もなく安眠できる魔法だ。覚えないわけがない。

 

火打ち石で火を起こす。

野宿を始めて覚えるようになった火の起こしかたは大分板についてきた。魔法を使わずともできることというのは増やしておいて損はないというダラクの教えに従い、結構、サ バイバル技術が身につきつつある。

 

 

「ああそうだ。ユキも大分歩くのに慣れてきたみたいだからこれあげるね」

「え?……綺麗」

「へえ。流石だな」

 

 

手渡された皮袋を覗き込めば、透明なビー玉みたいな玉が一杯詰まっていた。これはなんだろう?ダラクの反応を見るに良い物らしいけど。

 

「これは恵みの雫っていうんだ。魔力を貯めておける魔法具で、ただ持っているだけで自分の魔力が少しずつその中に溜まっていくんだ。勿論意図的に一気に魔力を注ぎ込むことも出来る。注意事項としては肌を介してでしか魔力は溜まらないこと、肌を介していたら勝手に魔力を吸取っていくから魔力が少ないときには持たないことだね。まあ、ユキの場合後者の心配は必要ないかもだろうけど」

「魔力を貯めるって、貯まったあと使えるの?」

「そ。治癒魔法に限られるけどね。使いたいときは割って回復したい場所にかけるか、飲み込んでしまえば良いよ」

「すっごく便利だね。これ貰っていいの?」

「うん、あげる。ユキは魔力のコントロールがまだまだで、結構外に漏れてるからね。漏れた魔力は少なからず周りに影響を与えるんだ。ほら、覚えがあるでしょ?やたらとここの生き物がユキに近づいてくる」

 

聞いていて安心する穏やかな声が、声色そのままで恐ろしい発言をした。

一瞬言葉が飲み込めなくて固まってしまう。

だけど曖昧にはしておけなかったから、恐る恐る聞いてみた。

 

「……え。え?そ、それって」

「ユキの魔力美味しそうだなあ~ってことだな」

「そういうこと」

 

ダラクは笑いながら茶化して、リオもリオで笑ってる。笑い事じゃない。

 

「魔力美味しそうだなあ~って、どういうこと?た、食べる?肉食?え。えっと」

「肉食動物ならユキのこと食べ物として狙うけど、ここら辺に住んでるのはほとんど草食動物だから」

「まあ、ぴったりくっついて魔力にありつこうとしてくるだけだって」

「はい?」

 

びったりくっついて魔力にありつく?思い出したのはやたらと私に向かって飛んできた奴らの姿だ。

さあっと血の気が引いていくのが分かった。思わず恵みの雫を鷲掴みにする。

 

「あ、慣れてないのに一気に魔力を注ぎ過ぎると体力が直接削られて辛くなるよ」

「あはははは」

「ちなみに水色になったら魔力が溜まった証拠。だからいくらそこに注ぎ込んでも意味はなし」

「……」

「それでリオがいうように慣れてねえのにそうやって使いすぎると 要領オーバー」

 

ダラクが言い切ったのと同時に眩暈がする。

いわんこっちゃない。

そんなこと言われても……。

 

「これ食ってあとは寝ろ。体力は温存しとかないとな」

「明日からは持つだけにしようね」

 

渡されたパンを口にしながら、優しいこと言いながらも笑ってる二人を睨みつける。絶対こいつら私が虫に怯えてるの見て楽しんでた。

……絶対虫にも慣れてやる。手掴みして二人にけしかけてやれるぐらい虫に慣れてやる。そして今度は私がからかってやるんだから。

 

……でもそれは明日から頑張ろう。

 

うん。

ダラクの言葉通り食べ終わった瞬間、寝床に横たわる。確かに体力が吸取られてしまいました。

 

 

 

 

 

 



 

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