12.リオ

 

「廻り逢うそのときに」12話。

【約束と秘めた言葉、リオ】

リオとの出会い

 

 

 

 

 

 

「いまのって魔法、なんだよね?」

 

冷たい指輪を撫でながら確認する。情けないぐらい声が震えた。

信じられなかった。夢物語だと思っていた魔法を、きっと、いま使えた。

魔法が使えるなんて……っ!

心臓がバクバクと喜ぶように音を鳴らす。なんなら人目も気にしないで飛び上がりたい気分だった。もう一度、さっきの感覚を確かめたいから唱えてもみたい。

 

でも、できない。

 

驚いた表情とか、信じられない表情とか、喜んだ表情だったらまだ想像がつくのに……離れた場所で立つダラクが無表情で私を凝視していて、緊張が走る。その視線は私が異世界の者かどうか尋ねたときとまるで同じで私を見てはいない。空恐ろしさを感じさせる、気味悪いとさえ思う視線だった。

 

ダラクは私を通して一体なにを見ているんだろう。

 

ふと、昨日の夜ダラクが言っていたことを思い出した。

『誰とは言えないけど、言われたんだ。……俺の知り合いが、俺の願いを叶えてくれるって。だから今はそいつを探してんだよ』

私には一人の人間をそこまで思う事はできないから、一途に求める姿を羨ましいと思った。だけど今その姿はどこか狂気を帯びているようにも見えて怖くなる。

『俺もそいつもお互いのことを知っていて会えば分かるらしいんだ』

昨日の私の仮定が正しいのなら、ダラクが探す人に私はどう関わるんだろう。私はどう役に立つんだろう。もしかしたら、この魔法が関係するのかもしれない。

知りたい。

ダラクが想うその人を、ダラクの旅する本当の目的を、ダラクのことを知りたい。

 

 

 

「ダラクはなにが欲しいの?」

 

 

 

ダラクは驚いたように目を見開く。私も口にしながら少し驚いた。

そうだ、この人はなにかを欲しがってる。誰に会おうとしているのか、じゃなくて、その人に会って叶えたい願いのほうが大事だ。

 

 

「私が異世界の人間である事がダラクのなにに役立つの?」

 

 

次いで質問をする。自分でも分かるぐらいになぜか焦っていた。早く答えが聞きたくて仕方がなかった。

 

 

「……それに答えてなんの意味がある?」

 

 

低い拒絶の声。

心臓が握りつぶされるような心地だった。冷たい指先を重ねて握る。

きっと私は地雷を踏んだ。

ダラクにとって聞かれたくないことだった。聞いてはいけないことだった。

 

……でも!

 

震える足を感づかれないように踏みしめて胸を張る。感情のない視線を睨み返した。

私は自分がこの世界の人間じゃないと答えた。なのにこのまま引き下がるのは割りにあわないし、なにより癪に障る。

 

 

「私はこの世界に来たばかりで頼りになるのはダラクしかいない。私もダラクを利用しているから利用されるのは構わない

……ただ知りたいの。ダラクのことが」

 

 

利用してされているのはお互い分かりきったことだ。でも、気づかれたくないことがあるなら気づきもしないように完璧に騙してほしい。それができないなら黙れるように餌が欲しい。そうしたら私は納得して追求はしない。

私は地に足つかない状態でフワフワなんとなく踊らされるのは嫌いだ。私は情報が欲しい。

 

「どこまで感づいているのか」

 

掠れた小さな声は疲れと、気のせいか笑いが含まれていた。

 

「なに?」

「……いまは言えない」

「え?」

「いまはまだ言うときじゃないしユキも知るときじゃない。だからユキの質問に答えることはできない」

「それは、ズルくない?」

 

口だけで微笑むダラクに口を尖らせる。欲しい答えは貰えなかった。だけどまあ、応えてくれたんだしいいか。

 

「分かった。でも、そのときは教えてね?」

「ああ」

「じゃあご飯食べに行こ!もちろんダラクの奢りになっちゃうけど」

「お前少しは遠慮っていうものを」

「え?お腹空いてない?」

「空いたけど」

 

気まずい空気が嫌だから話を切り替えると、ダラクは呆れたような顔で笑った。随分柔らかい口調だ。……よかった。

お互いお腹が空いていたからピリピリしてたんだ。お昼まだなのにもう16時をまわってるんだから、しょうがない。

 

 

「じゃあ行こう」

 

 

手を引っ張られるがままに進んでいたダラクも観念したのか、逆に私の手を引いて歩き出した。いい香りのする露天を指差しながらオススメしてくれるダラクの横顔は穏やかだ。

 

──いまはまだいい。

 

知りたいけど、いつかダラクから教えてもらえる。そのときまで待とう。

そのときまで。

俯いた瞬間過ぎ去った感情に息が止まりそうになったけど、すぐに顔を上げて、笑った。

 

 

「……まだ食うのか?」

「だって美味しいし」

 

 

両手に花。もとい両手に食べ物。ああ、幸せ過ぎる……。

私この町が大好きだ。カルティルは門から見えていた通り露天がひしめきあっていて、しかも食事どころが多めで、しかも美味しい!

普段あんまり食べないのに美味し過ぎてどんどん食べてしまえる。ううん。これはこれから旅するのによくない気がする。きっと粗食になるだろうし……いや、だからこそ今は食べてもいいよね?……いや、いやいやいや。

誘惑してくる悪魔の声を、揚げたての唐揚げを頬張ってなんとか堪える。

ああ、美味しい。

なにが嬉しいって前の世界の食べ物の名前とオルヴェンの食べ物が一致してるところだ。たまに見たことがないものがあるけれど、それはきっとオルヴェン特有のものだろうからあとで覚えたらいい。兎にも角にも食べたいものが食べられるなんて思ってもいなかったら嬉しい誤算だ。ああ、幸せ。

隣で溜息を吐くダラクが見えた。とやかく言わなくなったところを見るに諦めたんだろう。いいことだ。

 

 

「あー美味しかった」

「それはよかった」

 

 

全部食べ終わってようやくダラクが口を開いた。やっとかよ、って言葉は聴かなかったことにする。

 

「この街に特殊な力を持った魔導師がいるらしいから、いまから会いに行くぞ」

「なんで?」

 

前の世界なら「魔導師に会いに行こう!」なんて発言する人がいたらこいつ頭大丈夫かって感じになるのに、ダラクにそう言われてもまったく動じない私はこの世界に少しは慣れたんだろうか。

 

「ユキは魔法使えるみたいだからちょっと鑑定でもしてもらおうかと。聞いたところユキの世界では魔法は無かったんだろ?それなのにユキは使えてるからその理由でも分かるかもしれねえし、それにユキの魔法はなんか……特殊だからな」

「んー……本当になんで私魔法使えるんだろ?というか、特殊って。なんか変なの?」

 

首を傾げながら問うと、ダラクは少し唸る。

 

 

「なにしろ前例がないから分からないな」

 

 

ダラクにも分からないことがあるんだと変に感心してしまう。

でも、そうか。異世界に行ける人なんてそうそういないだろうから、分からないのが普通か。

 

 

「そりゃないだろうなあ……って、え?」

 

 

それならなんで私はこの世界に来れたんだろう。

普通なら来れるはずがない。それ以前に異世界という存在自体を知ることなんてないから、来ようとさえ思えないはずだ。

それで、そう。そのまえに──私はどうやってココに来たっけ?

つうっと背中に冷や汗が流れる。おかしい。なにか大事なことを忘れてる気がする。すっごく大事なことを。

『行くか?』

不思議そうに私を見るダラクの顔に、違う人物を、私をオルヴェンに連れてきてくれた男を思い出した。顔は長い前髪で隠されてて少ししか見えなかったけど、茶金髪のあの髪と冷めた碧眼に面白そうに歪んだ唇は忘れはしない。そうだ、あの男にこの世界に連れてきてもらった。きっと、魔法で。

なんだろう。なにか、見落としてる気がする。

正確な言葉が見つからなくてもどかしい。なんだろう。なにか、違和感がある。

 

 

「前例なんてない、よね?」

 

 

ダラクがきょとんとする。子供みたいだ。

 

 

「知らねえけどあるわけねえだろ。……?それじゃあユキはどうやってココに来たんだ?」

 

 

ダラクはようやく気がついた疑問に眉を寄せながら私を見る。その顔を見て更になにか忘れているような気がした。

 

「服装からして多分この世界の人だと思うけど、その人に連れてきてもらった」

「──どうやって?」

 

さっきとは打って変わって厳しくなった表情と口調に苦笑する。

 

「いや、なんというか急に目の前に現れて『行くか?』って言われて『行く』って言ったらまあ色々あって気がついたらここに」

 

我ながら適当な説明を聞いたダラクは呆れたような顔をして笑った。

 

「お前チャレンジャーだな。普通行くとか言わねえだろ」

「ただ馬鹿なんだと思う」

「まあ、とりあえず魔導師んとこでも行ったらなんか分かるかもしんねえから行ってみるか」

「あ、うん」

 

気持ち的にはまだ後ろ髪引かれる思いだったけれど、その魔導師とやらに会うことでなにか分かるかもしれないんだったら、分からないことをいつまでも討論するより効率的だろう。

それにしても、だ。魔導師ってどんな人なんだろう。やっぱりおじさんで、怪しげなフードを被ってて本とか持っているんだろうか。

 

「魔導師って人はどこにいるの?」

「ん?あー、知らね」

「……はい?」

 

清清しいまでの満面の笑みとセットの返答に頬が引きつる。

いや、さ?行くぞとかぬかしときながら行く場所知らないってどういうこと?ダラクのほうがチャレンジャーでしょ。

──そんな想いがありありと詰まった視線を読み取ったのか、ダラクは少し不貞腐れたように言い訳をする。

 

「ってか、魔導師に会えることなんて滅多にないからしょうがねえんだよ。大体魔導師も住んでる場所隠すしな。住人に聞いてみたら場所は分からないらしいが居るには居るって言ってたし……だから、まあ、会えるだろ」

 

もう開き直っているとしかいいようがない態度に呆れるしない。それでも私がご飯を堪能している間に聞き込みをしていてくれていたんだ。何もしてない私がごちゃごちゃ言うのは駄目だろう。

 

「魔導師ってそこら辺にいるもんじゃないんだ?」

「まずいねえな。言っておくけど、いくらここが魔法国家だとしても魔法は体力消耗が激しいから魔法を使える奴は限られてるんだ。魔導師はその中で異例な力を持つ者のことを指すから、特にいないんだよな」

「じゃあ私って凄いんだ?」

 

てっきりオルヴェンでは普通に魔法が使われるものだと思っていたから驚いた。だとしたら、異世界に着たばかりにも関わらず二日目にて魔法を使えた私はなんなのだろう。私は違った世界の人間だから“特別”ということなんだろうか。

 

「自分で言うか?まあ、ということで探すぞ」

「……どうやって?」

 

魔導師に会いに行こうという言葉から探すという言葉に変わったのにはあえてつっこまず、その代わりに聞くのも嫌だけど聞いてみた。するとダラクはまた笑って言った。

 

「聞き込み」

「…………そう」

 

聞くところによるとこの街カルティルに魔導師がいるという情報も元は風の噂らしい。住人の証言が得られても場所は分からない。つまり見つかる保証なんてない。だけど探す手段は原始的に聞き込みのみ。

 

 

「──すぐ見つかると思ったんだけどな」

 

 

能天気とも取れる明るい口調で言ったダラクの言葉に少し殺意を覚えた。

その自信がどこからきているのか是非知りたい。

地味に聞き込みをしていたあいだ「魔導師を知りませんか?」と聞いて返ってきた言葉は様々あったけど、大体「知らない」と「居るらしい」と「覚えていない」だった。ダラクが言っていたように魔導師は姿を隠すやめになにか色々工作をしているみたいだという裏づけだけはとれた。

正直、魔導師に会うなんて心底どうでもよくなっていた。でもまだ見つけ出す気満々でいるダラクを止める術がない。早く見つけ出して鑑定でも何でもして終わらせてしまいたい。

 

「ねえ?二人一緒に行動してたら効率悪いからいったん別れて、後で落ち合お」

「おっ、ついにやる気になったか!……一人でも大丈夫か?」

「一言余計。それに人探しぐらい一人でもできるよ」

 

子ども扱いされて少しムッとする。私、十六歳なんですけど。

 

「いや、そういう意味じゃなくて」

「じゃあ、また一時間後にここでね」

 

後ろで戸惑うダラクの声が聞こえたけど気にしないで街を歩く。そういえば一人歩きは二度目だ。そう思うとなんだかワクワクしてくるけど、本来の目的をしっかりと頭に止めながら人を探す。さぼってたのがばれたらダラクが五月蝿そうだし。

では早速、そう思ってざっと辺りを見渡す。だけど目に映るほとんどの人が忙しそうに早足で私の横を通り過ぎていき、同じ場所に立ち続けるお店の人はというと活気のある声を張り上げながら客の呼び込みをしているもんだから話しかけようにも話しかけられなかった。

人と話すことがあまりなかったことと口下手だったこともあって、話すタイミングを掴めない。今更ながらダラクと別行動したことを悔やんでしまう。それでも暇そうな人はいないかと辺りを伺っていたら、路地裏のほうから騒がしい声が聞こえた。

 

あ、暇人発見。よかった……。

 

嬉しく思いながら路地裏へと進む。大通りと違って暗く、騒音もあまり聞こえない路地裏でその人たちはなにやら言い争いをしているみたいだった。

 

 

「あのー」

「なんだよっ!……って、おい見ろよ」

 

 

声をかけると同時に振り返った厳つい顔をした男は私を見ると急にニヤニヤと笑いだし、自分の後ろにいる人たちを呼んだ。

 

「へえー、いいじゃん。こんなところにどうしたんだ?」

 

奥から聞こえた人をおちょくるような声のほうを見ると、逆光でよく見えないけど、そこには目の前にいる男と同じように大きい図体を持った厳つそうな男たちが三人いた。いや、一人だけ背が低いな。

 

「いや、あの私魔導師を探しているんですけどご存知じゃありませんか?」

 

ギャハハッとどこか寒気がする笑いかたの男たちに少し気分が悪くなったけど、できるだけ丁寧な口調で言った。失敗したかもしれない。

男たちは私の話なんて聞いていないらしく、ぼそぼそと小さな声で会話をしている。その様子に温厚なはずの私だけど苛立ちを覚えてしまう。

知ってる?知らない!

返事としてはそれだけなのに、なにをそんなに相談するんだ。

 

「おいっ、なにも喋らねえそんな男ほっておいてこの女で遊ぼうぜ?」

「だな」

 

楽しそうに笑う男たちは必要以上に私に近づいてくる。その姿に悪寒がして、もうこの人たちから答えを得ることを諦めて早々にこの場を立ち去ろうとする。だけど男の一人が私の腕を掴んだ。

 

「逃げんじゃねえよ」

「……」

 

背の小さな人以外の男が私を囲む。あんまりな状態に声が出なくなった。

握り締められている腕を見下ろす。近づいてくる体を眺める。笑いたくなった。また伸びてくる違う腕が視界に映る。

普通なら、この状況は怖いんだろうなあ……。

抵抗したり叫んだり慌てたりするんだろう。ああでも、無言のままの私はコイツラには怯えてるように見えてるのかもしれない。油断しきった笑みに確信する。客観的に分析してしまうのは気持ちを抑えるためなんだろうか。

 

「ぅうあ!」

 

肌を撫でてきた男にいい加減我慢が出来なくなって、キレた。男のすねを満身の力を込めて蹴る。鈍い音とともに悲鳴を上げた男が蹲るのを見て嗤ってしまった。緩んだ邪魔臭い手を払いのけて、途中まで伸びていたのに、今は戸惑い止まっている手を男の後方に回して関節を極める。耳に嫌な悲鳴を上げてくる。鬱陶しい。

 

 

「で、知ってるの?知らないの?」

 

 

弱すぎる男たちに更に苛立ちを覚えながらそれだけ聞くと、関節を極められている男が叫びながら答えた。

 

「しっし、知らねえっ!!」

「そ」

 

ならもうどうでもいいや。

男の手を離して大通りに向かう。だけど殊勝だったのは一瞬だけだったのか、私が背を向けた瞬間同時に3人が襲ってきた。

思わず笑ってしまう。やっぱりこの世界は飽きるところがなさそうだ。

さっきとは違って遠慮なく振り下ろされた拳を全て避けながらこっちからも攻撃を仕掛けようとしたけど、そこは多勢に無勢というか、固まって攻撃を仕掛けてくるからそうもいかない。

うん、邪魔。

だけど埒が明かないら多少もらうことになってもこちらから仕掛けることにした。すると怯んでしまったのか男たちが踏みとどまる。呆れた。

 

というより失望した。

 

芯の弱い男たちにほとほと呆れながら、目の前の邪魔な男のみぞおちを蹴る。そしてようやく振り下ろされてきたもう一人の男の腕を避けて掴み、前かがみになった男の顔面に思い切り膝蹴りしてやった。少なからず痛いし気持ち悪い感触がしたけど後悔はない。あの笑い方がすっごく不快だったんだよね。

……さて、あともう一人。

倒れた男を尻目に残っていた男に向き直ると、男は私を見て逃げ出した。でも逃がすはずがない。瞬発力のない男の前までまわりこむのに大して時間は要らなかった。男は口をパクパクとさせながら冷や汗をかいているだけでなにもしてこない。

にっこり笑って、言ってやった。

 

 

「逃げんじゃねえよ?」

 

 

私の言葉に男は一瞬固まったかと思うといきなり胸倉に手を突っ込みながら叫び出した。

 

「なっ、なめんなあっ!!!」

 

男が取り出したものは緑色の玉を持つペンダントだった。

え、なに急に。

この状態でなんでそんなものを取り出すのか気になって様子を見てしまう。緑色の玉が淡く光り始めた。

 

 

「っ、あ゛」

「あ」

 

 

なにか起きそうだった瞬間、目の前の男がうめき声をあげたかと思うと両膝ついて地面に倒れた。

数秒、なにが起きたか把握するのに時間がかかった。起き上がらない男から目を離して、こんなことをした奴を見る。今の今まで傍観していた背の低い男だった。

 

「……」

「……」

 

無言でお互いを見る。

なにか文句を言ってやろうと思っていた。最後の最後で手を出してくるなんて最悪だ。というか、そんなに簡単に相手をのせるんなら、なんで最初からしない。言いたいことはいっぱいあった。

だけど男の顔を見たらなにも言えなくなった。

 

男?女?……男だよね?

 

逆光で見えなかったその人は布を重ね合わせた服を着ていて、こういっちゃあなんだけど、かなりの女顔だった。背格好から男だということは分かるけれど、女(というより女の子)じゃないかと疑ってしまうぐらいその顔は幼く可愛らしい。肩まである癖のあるマスタード色の髪と瞳がすごく似合っていて──

するとそんな私の気持ちを読み取ったのか、その人はぶっきらぼうな口調で、そして予想よりもはるかに低い声で言った。

 

 

「言っておくけど男だからね」

「あ、いえいえ。そんなこと……あはは」

 

 

絶対、女顔がコンプレックスだ。

男という言葉を一際強調させて言ったその人は、今しがた自分が気絶させた男の手に握られている物を取り上げた。

 

「アンタさ、なんであのときすぐにコイツからこれ奪わなかったの?」

 

男は取り上げた物をそのまま自分の首にぶら下げながら私に向かって理解できないような顔をして言う。そんなことを言われても……。

 

「え、あ、いやーそのペンダントなにかなって思って」

 

ありえないだろ?と表情で物語る男の顔を見て少し気まずくなる。

 

「知らないの?魔法が使えない一般の奴らが持つ武器の一つじゃん」

「武器?それが?」

 

どう見たってただのペンダントだ。それにしても“一般の奴ら”が使える武器なんてあるんだ。魔法を必要としない武器ってぐらいだから、魔法が込められた武器なんだろう。発動条件とかもあるんだろうか。

 

「ほんとに知らないんだ……。どこの田舎者だよ」

「いいじゃん。知らないものは知らないんだから。それで、そのペンダントってどんな武器なの?ただのペンダントにしか見えないんだけど」

 

男はペンダントを裏返して、そこになにか文字でも書いてあるのかしげしげとそのペンダントを眺めたあと、口を開いた。

 

「これは相手を眠らせることのできる系統のやつだね。さっき薄く光っただろ?あれが白緑色に光ったら発動できる状態になるんだ」

「あ、じゃあ私危なかったんだ」

「まあそういうことになるね」

 

男は寝そべる男が他にもなにか持っていないかと確かめながら言う。

もしかしなくてもめぼしい物を漁ってるんだろう。でも別に咎める必要もないか。こいつらも似たような奴らなんだろうし、私は助けてもらった身だし。

 

「そうなんだ。ありがとう」

 

私がお礼を言ったことに驚いたのか、男は急に漁るのを止めてこちらを勢いよく振り返った。失礼な。

 

「え?ああ……そうだ、俺の名前は」

 

途切れた言葉と同時に男の表情が変わる。威嚇するような顔を最後に、男が視界から消えた。

え?

と思ったときには背中に違和感を感じて、気付いたときには誰かに守られるようにして抱きしめられていた。私の背後で誰かの叫び声と崩れ落ちる音が聞こえた。

 

 

「まだ動けたみたいだな」

 

 

近くで聞こえた低い声に驚く。どうやらさっき倒した奴らのうち一人が復活して、私に攻撃を仕掛けようとしていたらしい。また、助けてもらった。

……なんでだろう。

いまここで倒れている男たちに触られたとき気持ち悪いと思ったのに、いまこの人に抱きしめられているのは気持ち悪いと思わない。

 

それよりも、なんというか、恥ずかしい。

 

例え女顔だとしてもやはり男は男らしい。抱きしめられて感じたこの人の身体は引き締まっていて張りがある、男の人のものだった。だぼついた格好からでも鍛えられた身体だと分かったのに、ちょうど私の顔が治まるこの人の胸板は直に触れると予想以上に硬くて、厚いから、本当に鍛え上げられているんだなと改めて知ることができる。慣れない感触に落ちつかない気持ちになる。

 

「あっ、ありがと」

 

抱きしめられた状態でお礼を言うと男は少しだけ身体を離した。すると出来た空間の先にいる男は私を見ながら笑った。

 

「ん」

 

初めて、目の前いにいる男を可愛いじゃなくてかっこいいと思ってしまった。自覚して、徐々に顔が熱を持ち始める。慌てて顔を逸らした。ドクドクと鳴る心臓がやけに五月蝿い。

 

 

「俺はリオって言うんだ。アンタは?」

 

 

顔を直視できなくて俯きながら答える。

 

 

「私は、ユ、キ」

「え?」

 

 

すぐ近くに見える驚いた顔。

目が奪われる。リオの背後から指す夕暮れの陽がリオの髪を暗いオレンジ色にしていた。

夕暮れの陽。

心臓が止まりそうになった。

 

「ユ、キ?」

「やばい!時間が……っ!」

 

脳裏に過ぎる昨日の出来事。また待たせてしまってる!?時計を見てみると、うわあ。約束の場所に向かうまでに、約束の時間は過ぎてしまいそうだった。

うん、走ろう。

 

 

「ごめん!急ぎの用事があって……さっきは二度もありがと!また今度ね!」

 

 

唖然とするリオの顔が一瞬見えた。

なんでだろう。

妙に印象的だった。

 

 

 

  



 

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