07.最後の店

 

「廻り逢うそのときに」07話。

【ダラクという人、最後の店】

不思議なお店、不思議な店主

 

補足として「””」は魔法使ってます^^

 

 

 

 

 

 

「ユキの服でも買うか。これ全部準備に使っていいぞ」

 

 

そんな素晴らしい言葉を言って下さったスポンサー様ことダラクは、私に小さな袋を投げ渡した。中を覘き見るとどうやらこの国で使われているらしいお金がぎっしりと入っていて、思わず顔が緩む。

なに買おう?やっぱりこれぞ異世界っていう服も欲しいなあ。

ジャラジャラと素敵な音が鳴る小さな袋を両手で握りながら、夢を馳せにんまりと笑う。……あれ?でもなんで一緒に旅をすることになって最初にすることが服を買うことなんだろう?

 

「……あのさ、この服って変なの?」

 

予想(希望)と反して、ダラクは一瞬目を見開いたのち、頬を掻きながら目を泳がせた。え、ちょっと待ってなにその反応。ここは別に変じゃないよ、っていうべきでしょ?え?

なのに、

 

「なんかエロイ」

「エ?エロイ?これが!?」

 

言っていることが理解できなくてセーラー服の端を掴んでダラクに問い詰める。だけどダラクは満面の笑顔を見せた。

 

「平気な顔してたからユキにはそれが普通だと思ったんだけど……ラザルニアぐらいか?まあ、ここらへんではそんな丈の短いもの履く女はまずいないな。だから眼福」

 

確かに、こんな丈の人はいなかった。ロングワンピだったし……、露出がかなり多い人もいたにはいたけど一人二人しか見てない。うーわー……文化も勉強しないとなあ。

まあとりあえず服を買おう。

 

「ダラク服みてくれない?」

 

余計な一言を言ったダラクを小突いてから、なるべく可愛く見えるように首を傾げてお願いする。お金の使い方なんて分からないからダラクが精算しているのを見て覚えたい。

 

「ここら辺のお店ってよく分からないし……」

 

訳:だからついて来いよ。

だけど、ダラクは無情にも笑顔で言った。

 

「だからこそ1人で行ってこいって。この世界の通貨だから覚えとかねえと大変だぜ?」

 

正論に言葉が詰まる。でもひどい。

少し引っかかりを覚えながらも、しょうがないかと袋を握り締める。ダラクは恨みがましい私の視線に気づきもしない。

 

「じゃあ、私早く着替えたいし買い物行ってくる」

「分かった。適当に買い物が済んだらここに戻って来いよ」

「うん」

 

言って、すぐさま来た道を戻る。実はここに来るまでに通った道のりで良い感じの雰囲気を持つ服屋らしき店を見つけていたのだ。我ながらめざといというかなんというか……。

とにかく記憶をたよりに、しかもなるべく人の目につかないようにして歩くこと数分、念願の店に辿り着いた。

どちらかというと路地にあって人気の少ない場所に建つ、ぱっと見オシャレな喫茶店みたいなお店。色とりどりのレンガで造られており、お店の周りには丁寧に切りそろえられた垣根があり、花がバランスよく植えられている。壁のあちこちにはっているツタはお店を古めかしく見せるわけじゃなく、むしろ綺麗に見せているから素敵だ。

しかも、少し服屋かどうか不安になってきたところに、明るい色調の服がお店の窓の向こうにずらりと並んでいるのを確認できた。

なんだか凄くワクワクしてくる。そういえば買い物っていつぶりだろう?生活の為のバイト暮らしでお金に余裕もなくて、普段もセーラー服で済ませていたぐらいだ。ここは出世払いということで、今日は多めに服を買ってしまおうか。

一人ニヤニヤ笑いながらドアノブに手を伸ばす。

 

 

「っ」

 

 

だけどその瞬間、手にビリッとした鋭い痛みが走って慌てて手を引っ込ませる。静電気?まだ指はピリピリと小さく痛む。

おかしなことにドアノブは木製だった。なにが原因なんだろう。もう一度恐々、ドアノブに手を伸ばした。

 

「どうされました?」

「ひぃえ!」

 

背後で低い声が聞こえた。状況が状況だったから、驚きすぎて変な声が出た。

恥ずかしさを覚えながら手を引っ込めて振り返ると、肩まである髪を横結びの紐で結んで流している、小さな眼鏡をかけた穏やかそうな男の人が立っていた。微笑んでるのはこの人の常の顔だと信じよう。

 

「あ、いえお店に入ろうかと思いまして」

「……お店?」

「え?お店じゃないんですか?」

 

男の人は少し眼を見開くものだから慌てる。だけど男の人は首をかしげて唸ったあと、変なことを言う。

 

「なんのお店に見えますか?」

「え?服屋さんじゃないんですか?」

 

だって、ワンフロアを占めるぐらいに服がいっぱい並んでるし。普通の家にはこれほど置かないだろう。もしかして異世界ではこれが普通なんだろうか。

 

「では服屋ですね」

 

思わずは?と聞き返しそうになった。危ない。それは無遠慮過ぎると思ったけど、意味が分からなくて、男の人を見上げる。男の人は目が合うと微笑んでドアを開けた。カランと小さなベルが鳴る。

 

「あ」

 

さっきのは偶然か……。

まだ痛みの残る指を押さえながら、ドアノブを握る男の手を眺める。

 

「どうぞ」

「え?」

「私、この店の主なので。遠慮せずお入りください」

「わっ!そうなんですか!?で、では失礼します……」

 

店主?じゃあなんで私にここが服屋かどうかなんて聞いたんだろう?

疑問は浮かぶもののこれでやっと服が買えると思って、この件は保留して早速服を眺め始めた。

 

「あーコレも欲しい。いや、あれも」

 

久しぶりの買い物に、初めての異世界という事態が加わって欲しいものが次から次へと沸いてくる。どうしよう。どの服も可愛いし、なにより私の好きな服ばかりなもんだから全部欲しい。……あ、これホントにこのお金全部使っちゃうかも。

ポケットでじゃらっと鳴る音に、笑うダラクの顔を思い浮かべる。

全部使っていいって言ってたよな……ああ、駄目駄目。他に出費がかかってくるだろうし、そんなことしてたらもたない。貯蓄しとかないと。

……って、あれ?

そういえばいま持ってる服だけで合計何円だろう。値札はついているけど──1200フィル──あれ?フィルってなんだろう。

次へと伸ばしかけてた手を止めて、ちら、っと椅子に腰掛けながら本を読んでる男の人、もとい店主を覗き見る。

うん、優しそうな人だ。こうなったら聞くしかない。

 

 

「あの、すみません」

 

 

読書タイムを邪魔してしまったのに、店主さんは優しい笑みを絶やさなかった。

 

「いかがなさいましたか?」

「その……本当に申し訳ありませんが、このお金でどれだけ服が買えるか教えて下さい」

「えっ?」

「私この、国に来たのが初めてで、ここのお金の使いかたがよく分からないんです」

 

当然、え?、って言ってしまうだろうことにとりあえず曖昧な理由をつけて答える。前の世界でもドルとかお金の単位が違っていたし、怪しくはないはず。

すると男の人は少し驚いたような顔をしたものの、また微笑んで手を伸ばしてくる。

 

 

「ああ、はい。そういうことですか。では拝見しますね」

 

 

凄い、なんて優しい人なんだろう……っ。

促されるままダラクから貰ったお金をそのまま渡せば、袋を覗いた店主さんはさっきよりも更に驚いた顔をした。気のせいか、眉間に眉が寄っている。

どうしたのかと聞こうとしたけど、先に店主さんが口を開いた。

 

「この金額ならここにあるものの全てを買うことができますよ」

「え゛、ほっ、本当ですか?」

「ええ。よければこの国の通貨について教えましょうか?」

 

さっきのことに疑問はあったけど、願ったり叶ったりの申し出に飛びつく。じゃないといつまでも買い物ができない。

 

「お願いします!」

「はい、ではこれはですね──」

 

どうやらこの世界のお金の単位は円じゃなくてフィルらしい。そして、

アルミニウム貨、前の世界での一円。

黄銅、前の世界での五円。

青銅、前の世界での十円。

白銅、前の世界での百円。

ニッケル黄銅、前の世界での五百円。

1000と書かれた紙、千円。

5000と書かれた紙、五千円。

10000と書かれた紙、一万円。

ここまで前の世界とまったく一緒だ。そう思うと前の世界にないものがあるのがココの世界の特徴なのかもしれない。

パチンコの玉みたいな大きさで真っ白の真珠、一万円相当。

パチンコの玉みたいな大きさで金色の玉、5万円相当。

パチンコの玉みたいな大きさで銀色の玉、10万円相当。

ここでは金より銀のほうが価値が高いらしい。他にもちょっと特殊なものとかもあるらしいし、物々交換だって普通にあるらしい。すごいなあ。

 

「ありがとうございました!復習がてらちょっと服を選んでみます」

「はい。そうして下さい」

 

くすくすと笑う店主さんはなんというか大人の貫禄というか余裕があって、私もつられて笑ってしまう。この人は周りを穏やかにすることが出来る人だなあ。

 

 

「あ、よかったら名前を教えて頂けませんか?この国に来てから話した人が貴方で二番目なんです」

 

 

こんなによくしてもらってるのに私ってばこの人に名前も名乗ってないし、名前も聞いてなかった。でも気にしてないのか店主さんはまた優しい笑みを浮かべてくれた。

 

 

「ええ、もちろん喜んで。私はカリル=スラーグアと申します。……カリルでいいですよ」

 

 

すらすらと言われた名前がうまいこと聞き取れなかった。もう一度、と言いかけたときに言ってくれた言葉に恥ずかしくなる。

 

「ありがとうございます。私はユキと申します」

「ユ、キ?」

 

カリルさんは驚いた顔で凝視に近い迫力で見てくる。本が落ちても気にもしていなかった。

 

「はいそうです。……どうしたんですか?」

「いえ、なんでもないですよ。それにしてももう結構な時間が経ちましたが服はよろしいんですか?」

 

え。

その言葉で一気に現実に戻される。店にある窓から外を見れば──うわあ、夕焼けの景色も綺麗だなあ──陽が傾きはじめているような気がしないでもない。

うん。ヤバイ。

慌てて一箇所にまとめておいた、服を両手に抱えてカリルさんのところへ持っていく。ついでに途中で服を足しながら。

 

「お会計願いしますっ」

 

山積みの服で視界がふさがっていたから大声で叫べば、カリルさんから慌てたような気配を感じた。ちょっと声でかかったかな?

 

「こんなに買うんですか」

「え?あ、はい」

 

あ、そっちね。

一応、冬服もあったからオールシーズン対応できる最低限の枚数は買ってしまった。結構な量だとは思うけど、冬服含めて服の量はスーツケース2個くらいに収まったんだから、だいぶ抑えたほうだと思う。

……そういえば買ったはいいけど邪魔じゃないだろうか。これを持ちながら歩き回るって……まあ、きっと大丈夫だ。こういうときになにか対応ができる素敵な魔法があるよ!……うん!多分。

発生した問題を考えないようにしている間にも、カリルさんは不思議なものでもみるかのように一つずつ会計を済ましていく。その驚きようは見てて楽しい。

……それにしてもレジって前の世界と同じなんだ。ポスがあるし。なんだか面白いなあ。

 

 

「ユキは旅をしているんですか?」

 

 

浮かれてた私を現実に戻す質問にドキリとした。

 

「え。あーっと、今日からです」

「……今日からですか」

「……今日からなんです」

 

お互い苦笑してしまう。

ちょっとだけカリルさんに異世界から来たことを言ってみようかと思ったけど、言えなかった。実は私この世界の人間じゃなくて違う世界から来たんです。さっき着いたばかりで、まあ、色々あって知り合った人と旅することになったんですよ!なんて言われても普通信じられないし、あまり色々な人に言っていいことでもなさそうな気がする。

 

「では、ユキは戦えますか?」

「え?」

「獣はそこらじゅうにいますからね。それに最近は盗賊も増えているようで、襲われた人もいますよ。旅に不安を覚えさせたい訳じゃありませんが、闇の者がこの近くで現れたのではないかという話も耳にします。ユキは魔法を使いますか?」

「まっ、魔法は無理です。使ったことも……でも、戦うことならできます」

 

闇の者ってなんだろう。

そういうえばダラクもそんなこと言ってたような気がする。

よく分からなかったけど、戦えるかという質問に対しての答えは分かっていたから自信をもって答えれば、カリルさんは非常に驚いてみせた。また、苦笑いが浮かぶ。

 

「ここではどこまで通用するかは分かりませんが、そこらの女の人よりかは戦えると思います」

「使用する武器は?」

「基本は素手なんですが、使うなら剣ですね。それか小回りが効くものか」

「すごいですね。細腕なのに」

「といっても力では負けますから、受け流して、締めるんですけどね」

 

笑顔も合わしてそういえば大抵の人はしり込みするけど、カリルさんはほっとしたような笑みを浮かべた。この人も、結構曲者かも。

 

「”グアナル”」

 

え?

カリルさんが呟いたと思うと、突然割り込んできたかのように、なにもない場所からなにやら色々なものが現われてカリルさんの手に落ちた。

なに、いまの?もしかして魔法だろうか。だとしたら物体の法則無視してるよねこれ……あれ?

 

「いまのって、魔法ですよね。私、あんまり魔法を使ってる人を見たことがなくって。いまのは魔力そんなに消費しないんですか?」

「そうですね。日常魔法に関しては魔力はあまり消費しませんよ。攻撃魔法になってくると消耗は大きくなってきますが、大抵食べて寝ればすぐに回復しますよ」

「そうなんですかー」

 

あははと笑いながら、今いないダラクにほんの少し殺意が芽生える。やっぱりキスいらないじゃんか。

表情に出さないよう気をつけつつも色々考えながら、カリルさんの手にある物を覗く。カリルさんは、ほお、と感心したように呟いたあと、それを私の手に乗せた。

 

 

「見たところユキは武具を持ってはいないでしょう?旅は危険ですので必ず持っておいたほうがいいですよ」

 

 

カリルさんの言葉に意識が飛びそうになる。そして、また自分の自覚のなさを実感した。

危険。

旅ってただ歩いて色んな所に行って楽しく過すっていうだけじゃなくて危険もつきまわってくるんだ。闇の者っていう危険なのもいるみたいだしさ、認識が甘かったみたいだ。

……ちゃんとダラクにこの世界のことを聞こう。それでいまは、危険なときに対抗できるように武器を買っとこう──というか武器は絶対買う。日本とは違ってこの世界は武器を持っていてもなんのお咎めもないんだから!あの、憧れに憧れた武器が持てる!うーわあーーー嬉しすぎるっ。ファンタジックな世界万歳!!

 

って、え?

 

興奮でそれた意識をなんとか戻して手渡された武具を見たものの、想像していたものとは違う見慣れないものに戸惑う。

ヒラヒラで結構な露出がある服、ふわふわして綺麗だけど長すぎる布、ベルトみたいな三本の金色の固い棒?、薄くて黒い長ズボン、三日月型の鋭そうな細みの剣(確かこれタルワールってやつだ)などなど。

なにこれ?

カリルさんに手渡された物を眺めたあと、カリルさんを見上げる。一体、これはなんだろう。いや、武器なんだろうけど。

 

 

「その武器の役割は誘惑と翻弄ですよ」

「ゆっ誘惑?翻弄?」

 

 

一体、私にどうしろと。

 

「はい。戦っていくうちに使い方は覚えるでしょうが」

「誘惑……ですか。カリルさん、なぜにこれを私に?」

 

もしや私のイメージってそんな感じなのだろうか?素朴な疑問に、カリルさんは真面目な顔で答えた。

 

「いや、私が選んだ訳ではないんですよ。武器がユキを選んだんです」

「武器が、私を?」

 

やっぱり異世界だなあ、ココ。

 

「はい。この店にある武器は特殊で、自分にとって最も相性の良いものを武器が選ぶんです。……選ばれること自体が少ないんですが、選んだからにはその武器はユキを守り助けるでしょう」

「そうなんですか。へーなんか不思議……。あ、これ全部買います!」

 

選ばれた、なんて。

少し嬉しく思いながら、まだ会計の済んでいない服の上にのせて言った。カリルさんは戸惑ったような顔をする。

 

「いいんですか?この国に来て初めて会う奴のことを信用して武具を揃えて」

「はい大丈夫です。なんだかカリルさんはすっごい信用できますし」

 

そんな感じがするなんて曖昧な核心だったけど、カリルさんは少し恥ずかしそうに笑ったあと「そうですか」と言って残っていたものの会計を一気に済ませた。そして最後には山積みになった服全てを小さな紙袋(!)に入れて手渡してくれる。よかった、本当に良かった!流石魔法!魔法万歳!!

恐々代金の代わりに受け取った紙袋を覗く。数枚の服だけが見えた。……うん。今は深く考えない、考えない。

とりあえず一刻も早くということで、カリルさんにお願いして早速着替えることにした。長すぎる布……ショール?うん、ショールでいいや。とにかく、長いショールの使い方もカリルさんに教えてもらう。つまりは着せてもらったんだけど、どうにもカシュールに見えてならない。まあ、なにはともあれ感謝、感謝。

巻き方を覚えたあとは、ショールは紙袋に入れて、少し厚めの上着を羽織る。夕暮れ時に近づくと肌寒くなるらしいからこれぐらいがちょうどいいらしい。

 

 

「やばい、時間が」

 

 

窓から見えた外の景色は、もう気のせいでは済ませられないぐらいに大分陽が沈んでいた。……ダラクは怒らせたら厄介そうだ。

 

「あ、ユキ。これも持って行ってください」

 

慌ててお店から出ようとしたとき腕を引っ張られる。驚いている間に手を掴まれて、ころんと何かが掌にのった。5つの色とりどりの丸がついている綺麗な金色のブレスレットだった。

 

「その玉の中にはどんなものでも、あなたが望んだものを一つだけ入れることができます。そして心で望めばそれはすぐに目の前に現われてくれます。便利ですから使ってください」

「えっ!本当ですか?……というか、そんな凄いもの頂いていいんですか?」

「ええ、差し上げます。旅はくれぐれも注意してくださいね」

 

カリルさんは紳士よろしく優雅なしぐさでドアを開けてくれる。カラン、とドアのベルが鳴った。そして改めて見る陽の傾き具合に思わず溜め息。

 

「カリルさん……。本当にありがとうございます!またお会いしましょうねっ」

「ええ。また今度、ユキ」

 

ああ、本当にこの人はいい人だ。

感謝の想いを噛み締めて笑って別れを告げる。そしてすぐに走る。

 

「ダラク怒ってるだろうな。……どうでもいいけどこの世界も朝と夜がちゃんとあるし太陽もあるんだ」

 

とりあえずこれからくらうだろう怒りに備えて頬を叩く。気合も入ったところで来た道を全力疾走で走った。

 

 

 

「──おっせえ」

 

 

 

待ち合わせ場所に着いてすぐにダラクは一言。眉間にシワを寄せてかなりご立腹状態だ。原因はやっぱり、ちょっと──まあ、3時間ぐらい?買い物してて、ダラクを待たせてしまったことだろう。待たせてしまったことは悪いとは思うけど、時間を決めなかったりしたダラクにも落ち度があるはず。うん。ごめんなさい。

手を合わせて謝りながら頭を下げれば、ダラクははあーと長い溜め息を吐いた。

 

「ま、いいや。戻ってきたんだし。行くか」

「……あ、うん」

 

そして吐露された言葉にはっとする。

歩き出したダラクの背中を追いながら、暗くなった道を歩く。まるで知らない土地だ。それなのに今日少しだけ歩いて知った道の先にダラクがいるからまっすぐ、なんの恐怖も抱かずここまで来れた。

1人だったらこんな時間、不安でしょうがなかったはずだ。絶対ここにダラクがいてくれてるって知ってたからできたこと。

なら待ってるダラクは、今日会ったばかりで、しかもお金まで渡した私が本当に戻ってくるか不安だったんじゃないだろうか。恐怖なんて言ったら大げさだけど、不安はあったはず。

ちょっと、ううん。かなり反省だ。ダラクの服の裾を引っ張る。振り返ってくる気配を感じたけど、顔は見れなかった。ダラクはなにも言わずそのままにしてくれる。

 

 

「ありがと」

 

 

待っててくれて。信用してくれて。

そこまではなんだか恥ずかしくて口にはしなかった。ダラクが歩き出して、呟いた。

 

「ばーか」

「なにそれ」

「ばーか」

「……ばーか。わ、ちょっと!」

 

こっちを向かないで憎まれ口叩くから同じように言い返せば頭を撫でられる。撫でられるというよりぐっちゃぐちゃにされた。「あ、そうだ」と呑気な声が頭上で聞こえる。

 

「いま宿に向かってんだけど、明日からは野宿になるから存分に堪能しておけよ」

「野宿!?」

 

予想外だった言葉に思わず歓声を上げて、まだ髪に手を絡ませて遊んでいたダラクの手を叩き落す。

うわあ!本当に旅って感じ!!RPGだ!明日からいよいよこの世界を歩き回るんだ。

旅を、するんだ……!

そう思うと反省気分なんてふっとんでわくわくしてしょうがない。無性に嬉しくなってくる。知らないものがいっぱいなこの世界。大陸、お城、魔法、武器、闇の者──楽しくてしょうがない!

 

「う~ん。旅つったら基本それだな。まあ、嫌なら考えがなくもねえけど?」

「嫌なわけないじゃん!むしろ野宿とか面白そうっ!!」

 

叫んだ瞬間ダラクが呆れたような顔をしたけど、まったく気にならない。旅に馳せる想いはそんなことぐらいで邪魔されない。ああもう楽しみでしょうがない!

この世界でなにを見れるんだろう。なにがあるんだろう。なにが待ってるんだろう。

 

……ダラクはこの世界でなにを見てきたんだろう。

 

コロコロ変わるダラクの表情。それはまるでいままで見てきたこの世界の一つ一つの場面のようで、どうしようもなく惹かれる。

この世界を知りたいと思うのと同じくらいに、ダラクのことが知りたいと思った。

 

 

 

  



 

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