02.神子の役割

 

 

「愛がない異世界でも生きるしかない」02話。

連れられた部屋に疑問を抱く梓。不安に追い打ちをかけるように語られるのは神子の役割で──

 

 

 

 

 

案内された部屋はホテルのラウンジみたいな場所だった。高級感あふれる広い空間にはゆったりとした座り心地のいいソファがおいてあって、白を基調とされている。

 

 

「こちらは待合室で、奥が花の間となっています」

 

 

案内をかってでた男の説明を聞きながら梓はひきつりそうになる口元を必死でおさえる。

待合室って何?花の間って?

なにひとつ伝わらない説明にどうしようかと思っていたら、奥の部屋から少女が出てきた。歳は10ぐらいだろうか。白と黒を基調としたエプロンドレスで、メイドのような服装をしている。ナイトキャップのようなメイドの帽子から緑色の髪がこぼれていた。

 

緑色の髪……。

 

見慣れない髪色に興味が移って、梓は男の存在をすっかり忘れてしまう。

少女は梓と男を見て驚いたように瞬きをしたのも束の間、その歳では考えられないほど落ち着いた微笑みを浮かべて綺麗なお辞儀をしてみせた。

 

 

「君、神子様に案内を頼む」

「かしこまりました。神子様、メイドのカナリアと申します。お部屋までご案内させて頂きます」

「え、っと……はい。ありがとうございます、私は樹といいます。よろしくお願いします」

「失礼ながら神子様。メイドにそのようなお言葉は不要です」

 

 

カナリアと違ってたどたどしいお辞儀をして感謝の言葉を述べた梓にぴしゃりと冷たい言葉が返ってくる。これには笑うしかない。

 

「それでは神子様。失礼します」

「……ありがとうございました」

 

梓の言葉に男は微笑み部屋を出ていく広い部屋にいるのは梓とカナリアだけだ。心細い状況に加えカナリアの存在が梓を落ち着かせなくする。

 

「それではご説明させていただきます。こちらは待合室となっていて男性も女性も入室を許可された場所です。神子様がどなたかにお会いしたいときにもお使いいただけます。もしなにかご入用でしたら机に置いてありますベルを鳴らしてください。私共が参ります。そしてこちらが花の間──神子様と女性のみが入ることのできるお部屋です」

 

部屋を横断するように歩くカナリアの後ろをついて歩き、開けられたドアを見て梓は「あ」と声を出してしまう。

そこは待合室と同様の広さで白を基調とした空間だったが、女性専用というだけあって内装に凝った場所だった。いたるところに活けられているにも関わらず五月蠅さを感じさせない花は種類も色も様々で見ているだけで心が和む。ダイニングテーブルには汚れが見当たらない真っ白なテーブルクロスが敷かれていて、華やかな食事風景を連想させた。大きな窓のある部屋の隅には小さなテーブルとソファがいくつか置かれていて、ゆったりと時間を過ごせる空間が出来上がっている。近くには書棚がいくつもあり小さな図書館のようだ。

 

 

「花の間では神子様達がおくつろぎいただけるように作られた場所で、お食事はこちらで召し上がれます。メイドが2名常駐していますので、お食事をご希望の際やなにかご入用の際は遠慮なくお申し付けください。……なにか分からないことはございませんか?」

 

 

振り返るカナリアの動きに合わせて緑色の髪が弧を描く。綺麗だなと思ってしまったことをカナリアが知ったら呆れることだろう。髪の色と同じく緑色の瞳はシェントと同じように感情を感じさせない、冷静なものだ。

 

 

「この部屋を使うにあたって注意事項はありますか?あと一番分からないのは今後のことですが、それはなにかご存知ですか?」

「注意事項は花の間へ男性をお連れすることができないだけです。今後のことは後ほどシェント様よりお話があります──いらしたようです」

 

 

カナリアのほうからチリンチリンと鈴が鳴る音がして、梓は首を傾げる。カナリアは動じることなく梓を待合室へと促しながら答えた。

 

「待合室のベルが鳴りますとメイドが持っています腕輪がこのように音を鳴らします。ですので私たちはいち早く神子様の元へお伺いできます。どうぞ、シェント様達がお待ちです」

 

カナリアの言うように、待合室には複数の人がいた。

梓と同じように神子として召喚された女の子2人に、女の子を案内すると先に建物を出た背の高い男とシェントだ。女の子2人はソファに身を預けていて、花の間から出てきた梓をみるとなんともいえない微笑みを作った。

 

 

「樹様、どうぞおかけください」

「……はい」

 

 

シェントは一斉に注目をあびて気後れする梓を招き、端の席に座らせた。遅れてシェントが座って、背の高い男も座る。

 

「これからのことですが、まず神子様達の生活は保障させて頂きます。欲しいものがありましたらなんでもお申し付けください。メイドから聞いていると思いますが、花の間に控えているメイドは勿論、誰でも構いません。それが神子様達を召喚した私たちができるせめてもの償いです」

 

償いなんて言うなら、召喚するなよ。

梓は内心で悪態を吐きながらシェントを見る。

 

「召喚の間で私たちは魔法が使えると申しましたが、魔法は稀有なもので扱えるものは限られています。魔物の討伐に大きな力となる魔法を絶やす訳にはいきません。……失礼。神子様達の世界では魔物という存在はいますか?」

「い、いえ?いいえ、わ、私の世界は……というより、ち、地球では……?」

「えっ!?私もそうなんだけど!地球!」

「私もそうです。地球では魔物というのは架空の存在です」

 

清楚系の女の子はすっかり背の高い男に懐いたらしい。魔物という言葉に怯えた女の子は男の腕にぎゅっとしがみついていた。ギャルの女の子は目を輝かせてシェントの話の続きを待っている。

 

「そうですか。魔物は普通の獣と違ってその身体は2倍以上から成り、その力も強大な存在です。数匹ならまだ太刀打ちできますが、群れとなると魔法の力なくして戦うのは難しい状況です。国を襲う魔物から身を守るために魔法は欠かせないのです。……本当ならこの世界の者だけでどうにかしたかった。ですが魔力を内包する女性自体この世界では少なく、この世界の女性がもつ魔力量も多いとはいえない。神子様だけなのです。大いなる魔力を持ちし尊き存在は──っ」

 

頭を僅かに下げて言葉を詰まらせるシェントの隣で、背の高い男も沈痛な面持ちで清楚系の女の子を見つめていた。

 

 

「……事情は分かりました。けれど私たちには私たちの生活があります。少なくとも私は帰りたい。召喚が成されて帰ることはできないと仰っていましたが、本当に、なんの術もないんですか」

 

 

感情を押し殺す梓の言葉に清楚系の女の子は首を傾げ、ギャル系の女の子は僅かに相槌を打っている。

 

 

「……あるといえば、あります。召喚は5年に1度行われています。もう1度召喚が行われる際、もしかしたら樹様の世界に帰る道ができるかもしれません」

「もしかしたらって……!……すみません。そうですか。召喚は5年に1度必ずされているんですか?今日にも出来ないんですか?」

「召喚は5年に1度ある今日のように月と太陽が重なる日にしか出来ないんです。私たちも生きるために召喚は避けられない。そうです、必ずしています」

 

 

生きるため。

その言葉に憤る梓の気持ちが少し収まる。事情を聞けばこの国の行動は分からないでもない。生きるために考えだされた手段が召喚だったのだろう。

しかしどれだけそれらしく言葉を飾ろうが、この国がしているのは壮大な規模の誘拐だ。誘拐して衣食住は保障するから力を尽くせそれで文句はないだろう?などとおかしな話だ。

シェントの言葉を信じれば話はそういうことだった。そして、こちらは確証はないが、召喚は5年に1度しか行われずどうしても帰りたいのなら召喚の儀式に合わせれば出来るかもしれないとのこと。

 

ならば最低限、5年はこの世界で生きなければならないのだ。

 

女が少ない世界で貴ばれる魔力の豊富な異世界の女、神子。いままでの様子を見る限り、神子のお眼鏡にかなうような見目麗しい男をそろえて甘い言葉と贅沢な環境を対価に用意している。

神子に求められる対価はこの国に居ること。それでこの世界にとって大切な魔力を、魔法が使える男に渡すことができるらしい。

 

 

「まあー、なんかー?大変そうだし、よく分かんないけど私にできることがあるならするからさ、安心してよ?」

「わ、私もアラストのためになにか出来ることがあったらするよ!」

 

 

2人の女の子の好意的な言葉にシェントとアラストと呼ばれた背の高い男が微笑む。気のせいか甘い空気が浮かぶ空間に気が引けつつも、梓は固い表情で再び質問をした。

 

「……神子が居るだけでいいとは言っていましたが、具体的になにかありますか?」

「……現在この国には魔法を扱えるものは私とアラストを含めて7名しかいません。そして神子様も樹様達を合わせて7名です。魔力は近くにいるものに移るようになっていますので、神子様達には7名の誰かと共に過ごして頂きたい」

「え、……えっ!」

「それってヤルってこと!?うっわ!あ、すみません」

 

恥ずかしく顔を覆った清楚系の女の子と違って、ギャルの女の子が随分と直球に発言した。またもや代弁者となってくれたギャル系の女の子を梓は心の中で崇めつつ、シェントを睨むように見る。シェントは困ったような微笑みを浮かべていた。

 

「いえ。私たちがお願いするのは共に過ごす時間をくださること。一番近くに居る者に魔力は移りますので身体を重ねる必要はありません」

「へー、なーんだそっか。じゃあシェントさん私とどう?」

「……ありがとうございます」

「わっ!私はアラストと!」

「千佳(ちか)様……ありがとうございます」

 

梓としてはこのまま話を進めたくないのだが、話はどんどん進んでいく。目の前で完成したカップルを眺めながらここにいない魔法を使える男と今回の神子ではない先輩の神子のことを考えた。

誘拐されたその日に、誘拐してきた奴らの勧める男と一緒に過ごせって……。

 

「すみません。もう少し時間を頂きたいです。まだ混乱していて、そんな、知らない人と過ごせと言われても無理です」

「勿論です。後日ヴィラという男を紹介させて頂きます。現在魔物討伐に赴いていて明後日には戻る予定です」

「……分かりました」

 

正直な気持ちとしてはなにひとつ分かりかねる状況だったが、ひとまず最悪な事態は乗り越えることができて梓は溜息を吐く。

なにが共に過ごす時間だ。なにが待合室だ──ここは風俗店か。

疲れた梓の心を感じ取ったのか、シェントが「では」と口を開く。

 

 

「お時間をとって頂きありがとうございます。今日はゆっくりお休みください。……白那(しろな)様少しいいですか?」

「うん、いいよー」

 

 

同じタイミングでアラストも千佳を誘いだしたので、きっと共に過ごす時間のことだろうと梓は感づき、その場を後にする。まっすぐ花の間へ歩いていく姿をシェントがひっそりと見ていたが、梓は気がつかなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 



 

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