01.すべてが奪われた日

 

 

「愛がない異世界でも生きるしかない」01話。

積み重ねてきたものがすべてなくなった日。

 

他投稿作品と世界観はまったく違うものです。

 

 

 

 

 

 

 

母はいつも言っていた。

 

 

『私はアンタの母親だけど、一人の人間なの。母親としての責任でアンタを高校までは面倒見るけど、それからは自分で自分の面倒を見てね』

母の言うことはもっともだし納得はできる。

だけどそれを両親が離婚した6歳のときに初めて言われたとき、正直なにを言っているか分からなかったし、意味が分かったらショックを受けた。

『自立して生きるんだよ、梓』

母は有言実行の人で、恋多き人だ。ときどき無茶苦茶な人だとは思うけれど、私は一人の人間として母のことを尊敬していた。母一人で私を学校に通わせるのは大変なことだろうにちゃんと面倒も見てくれて、口酸っぱく自立しろと言ってくれたお陰で将来のことを真剣に考えて生きてこれた。

 

生きるためにはどうすればいいのか。

 

樹梓(いつきあずさ)はいつもそんなことを考えてきた。平和な日本のうえ食べることにも困らなかったのに、小さい頃からずっと考え、行動してきた。

お金はなにかしたいときに使える便利なものだ。あるにこしたことはない。出来ないことは少ないほうがいい。出来ないと誰かに頼むことになるしお金もかかってくる。人付き合いは大切だとは思うけど、信じすぎないほうがいい。でも信頼がおける人や尊敬できる人好きな人はとても大切だ。

 

 

どうやって生きていきたいのか、そうするためにはどうすればいいのか、梓はずっと考えて生きてきた。

 

 

だからこそ梓は夕方に届いた大学の合格通知に不安より嬉しさが勝っていた。培ってきたものがこれからの未来を輝かせていたのだ。

梓は合格通知を机に置いて、いまだ帰ってこない母のことを考える。

母はきっと「よくやったじゃん」と笑うだろう。そして「アンタとももうすぐでお別れね」と余計な一言を付け加えて笑うんだ。最近恋人になった人といい感じだから、余計な一言ではなくただの本心かもしれないけど。

幸せだった。

好きに動ける五体満足の身体のうえ、理想や普通とは違っても尊敬して愛する母がいて、馬鹿話もできて意見を求めると心からの言葉をくれる友人たちがいる。

 

 

──それが奪われたのだと分かったのは、いかにも偉そうな男が吐き出した言葉のおかげだ。

 

 

 

「今回の神子は3名か……」

 

 

 

男の声に梓は現実逃避していたことに気がついて、改めて辺りを見渡す。

先ほどまで合格通知を居間で見ていたにも関わらず、今いる場所は協会を思わせる神秘的な場所だ。大きな窓やステンドグラスから差し込む光がキラキラと石造りの建物を美しく飾る。

それだけでも十分に動揺してしまうが、広い建物には大勢の人がいた。馴染みのない中世を思わせる服を身にまとう者が多かったが、物騒な槍を手に鎧を身に纏った兵士らしき格好をした者もいる。

この異様な空間になぜか梓はいた。梓の認識が間違いでなければ、この空間に移動したのは一瞬のことだった。

 

「神子……なにそれ」

「え、なに。皆どこ行ったの」

 

戸惑う女の子の声が聞こえて隣を見れば、制服に身を包んだ女の子が2人いた。どこの学校かは分からなかったけれど、慣れ親しんだ造りのもので安心する。梓はこの子たちは私と一緒だと確信して――この意味の分からない現状に恐ろしさを覚える。

神子が3名と男は言った。同じ状況らしいこの2人と梓自身を合わせれば3名だ。それはつまり神子とは梓たちのことをさすのだろう。

気持ち悪い。

梓は嫌悪感を覚えて肌をさすった。

 

 

「ここは王都ペーリッシュ。我々には神子様のお力が必要なのです」

 

 

どこかの小説でみたことのある決まり文句にひとつの言葉が思い浮かぶ――異世界召喚。それは他の女の子も同じようだ。2人とも確認するようにお互いの顔や梓の顔を見て、それからまた周りを見渡す。

 

「召喚という暴挙に出てしまったこと、どうかお許し下さい」

 

男は申し訳程度に謝罪の言葉を述べながら手の平に手品とは思えない神秘的な光を出した。それは慣れたような仕草だった。異世界召喚に疑いを持つ私たちにありえない現象を見せつけている。

男の手の平の光は様々な色へと変わっていき、最後は小さな点に収束して一気に高く昇った。そこで初めて知ったのは教会のような建物の天井の高さだ。とても高くて打ち上げ花火を見ているような気持ちになる。実際同じようなもので、光は音もなく花のような形となって弾けた。そしてキラキラとした粒子になって落ちてきたかと思えば、花に姿を変えて梓たちの手にひとつずつ収まる。

どうやらあまりにも美しい光景に梓たちは思わず手を伸ばしていたらしい。

ピンク色の花弁が綺麗な花だ。梓たちは「わあ」とか「綺麗」とか呟きながらお互いを見て、また、男を見る。

それからようやく余裕が出てきたのか、目の前の男以外の者たちもじっくり見ることができた。

 

なにこの人ら……。

 

驚いた梓の眉間にシワが寄る。生きていくために色々することがあってテレビなどの娯楽に時間を費やすことができなかった梓でも分かった。

ここに居る人全員が芸能人を思わせるイケメンだ……。

 

 

「やだ、あの人カッコイイ……」

「ちょっ!やっぱりそう思う?ってかイケメン多くない?」

 

 

思わずだろう出た女の子の言葉に反応を見せたのは相槌を打った女の子だけではなかった。女の子がカッコイイと称した男が前に進み出て、女の子の手をとる。

 

「我が神子。どうか私に案内をさせてください」

「か、神子!?あ、案内って、えー……よ、よろしくお願いします」

 

見つめてくる男の視線に女の子は恥じらいながら差し伸べられた手をとった。そしてそのまま建物を出て行く。慌てたのは梓ともう1人の女の子だ。お互い近づいて安全な場所を確保する。

ずっと説明してきた男は顔色ひとつ変えずに、というより今の光景が見えていなかったかのように話を続けた。

 

「さきほどお見せしたように私たちは魔法が使えます。しかしながらそれを使うための魔力を私たちは作ることが出来ないのです。神子様だけが、私たちに魔力を与えてくださる。どうか私たちに恵みを」

「え、えー?いや、魔力ってちょっとよく分かんない……分からないです。だから恵みとか……ねえ?」

 

女の子が梓に同意を求めてきて、梓はすぐに頷く。

気持ちを代弁してくれる女の子に感謝の気持ちを胸にその顔を見て、驚く。友人にとてもそっくりな子だった。女の子はギャルという言葉を連想させる雰囲気を持っている。梓の学校ではまず間違いなく取り締まられるほど胸元は開けられていて、可愛らしい下着を隠してはいない。濃い化粧がされていてきつめの印象を受けるが、不安そうな表情のため可愛らしさを覚えた。

少しばかり間ができる。その間を止めたのは男だった。

 

 

「神子様たちは居て下さるだけでいいのです。この王都でどうぞ意のままにお過ごしください。私たちが神子様の望む物すべてをご用意致しましょう」

「え、あの、困ります」

 

 

様子をみてこのまま黙っておくつもりだったものの、不穏な言葉に梓はつい口を開いてしまった。男がちらりと梓を見て、先を促す。

梓はすぐに言葉を続けられなかった。言葉を出した瞬間、やけに現実味を感じて震え始めた手が目に映る。落ち着け……。梓は自分に言い聞かせながら深呼吸をして、目の前の男に向き合った。

 

「正直まだ現状についていけないのですが……本当に異世界召喚?されたんですよね。ここはペーリッシュという国で、日本じゃないんですね」

「仰せの通りです」

「帰りたいです」

 

ドッキリや馬鹿な夢の可能性も捨てきれないけれど、居間に居たはずなのに一瞬で、こんな1度も来たことがない教会のような場所でコスプレ集団に囲まれるなんて普通ありえない。先ほど見せてもらった魔法とやらもそうだ。

これは現実だと思わなければならない。もしそうじゃなかったら馬鹿だったと笑って黒歴史にすればいいだけの話だ。

でもこれが現実だとすると相当危ない状況なのは間違いなかった。男が話す内容は神子がこの国に定住することが前提だ。

男は溜め息を吐いた。眉を寄せた顔だからさまになっているものの、梓にはもうとってつけたような表情にしかみえない。

 

「神子様……既に召喚は成されたのです。神子様が元居た場所に帰ることはできかねます」

「そんな「え!?ちょっとなに言ってんの!?帰れないって嘘だよね!?」

 

予想していた答えに苛立ちが募ったものの、梓の声を掻き消す女の子の大きな叫び声に我に返る。

状況は不穏だった。泣きだした女の子の周りに男たちが集まってくる。そう、男ばかり。ここには女性が1人もいない。ただの偶然だろうか。

そして男たちは女の子に、黙り込む梓に「お可哀想に」「申し訳ございません」と次々と言葉を投げかける。

 

 

「私は神官のシェントと申します。どうぞシェントとお呼び下さい。……お名前をお聞きしても?」

 

 

梓が偉そうな男と称したシェントは泣き叫ぶ女の子を見たあと、会話が可能だと判断した梓を見て聞いてくる。長い金色の髪を肩にかけるように一つにまとめているシェントは冷めているとも冷静ともいえる表情だ。シェントも例外なく恵まれた容姿をしている。それがなにか、梓に不安を抱かせた。黒い瞳が梓をじっと見ている。

 

「……樹です」

「樹様。不安もお怒りもあるでしょう。ですがまずお部屋にてお休みください。心を休めて――それからまたお話を」

 

シェントの言葉に合わせて近くに居た男が跪き梓に手を差し出してくる。

跪くって……どうすればいいわけ。いや、分かるけど。

梓は眉をひそめて差し出された手を見てしまう。無言でそうしていれば、男は苦笑いを口に残して立ち上がった。

 

 

「こちらへ」

「……」

 

 

男の案内に梓は続きながら、女の子の泣く声が聞こえなくなったことに気がついた。女の子はいくつも差し出された手に迷いを見せたあと、そっと自分の手をのせていた。

頬を赤らめる女の子の表情に梓の顔が歪む。

 

とても浮かれることのできない現状だと知るのは、もう、そう遠くない。

 

 

 

 

 

 

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完全女性向けです。

エロさは身体のものは少ないのでキュン要素が多いかも。

 

感想は各ページの一番したでもできますので是非ԅ( ˘ω˘ԅ) 

 

 

 

 

 



 

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