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17.ラミア建国歴史

 

 

 

 

昔、美しい女がいた。

 

華奢な身体に白い肌を持ち、腰ほどもある美しい金の髪を持っているその女は、なによりも強い意志を感じさせる瞳で人々を魅了する。その姿は言葉に表すには難しく、ただ誰もが感嘆の息を吐くのだという。女を見た少年はこう言うのだ。女神だ、と。

女は容姿のみならず魔力にも恵まれていた。それは天地をも揺るがす力で小さな身体には余りあるものであった。風を操り空を舞い、地と話し生命を蘇らせる。限りない魔力──だがそれを知る者はいない。女だけがその“力”が善にも悪にもなりうることをを知っていた。ありすぎる力はときに災いを呼び起こす。それが起こらなかったのはひとえに女が意識し、害を避けていたことに他ならない。

 

しかし、その時は起こった。

 

隠し通すこともやり過ごすことも出来ずにいた膨大な魔力は、もはや異常とも賞賛できる女の精神力でさえも敵わず、女の精神を揺らがすきっかけに反応し、弾けた。愛する者を奪われた女は真実に怒り狂い、力を使った。

音が消えた。

光が消えた。

その場にいたものが最後に聞こえたのは、女の発した声。最後に見えたのは、女の涙、壊れた世界。

一瞬にしてその国は消えた。

国を滅ぼした力は、それに止まらず大地を震わせ、他の国にも大陸にも影響を与え、災害を招いた。

(この災害に関しては別紙に記載済み)

 

 

 

……そしてそれからおよそ数時間後、その国が存在したはずの場所に、幾人の者たちが示し合わせたように訪れた。彼らは一様に、訳の分からぬまま、なにかに導かれるようにやってきたのだという。彼らがそこで見たものは、どこまでも続く骸と瓦礫の山の中の中心で、骸を手に涙を流しながら空を見続ける女の姿。乱れてはいるがこの状態の中でも光り輝く金色の髪は鮮やかで、血にまみれた傷だらけの女をより美しくさせる。

その女のことは誰もが知っていた。

多くの人々に囲まれ、幸せそうに生きていたあの、美しい女だった。

 

「これは」

 

一人の男がたまらずそう呟く。いったいなにがどうなっているというのか。

女はその声に一度ビクリと肩を揺らすと、ゆっくりと、壊れた玩具のように、ゆっくりと、顔を声のしたほうに向けた。

風がざわめき、辺りに充満していた腐臭が否応なく襲い掛かってきた。あまりにきつい匂いに顔を歪めていると、いつのまにか女は立ち上がっていた。片腕で大事そうに骸を抱いている女の感情の見えない顔はまるで人形のようで、その美しさと危うさが、女がこの世のものではないように思わせる。女が掠れた声で呟く。

 

「もう、私には」

 

涙がまた零れたが、女はそれを拭うことなく、ただ手に持つ骸を見ていた。

 

「私には……いなく、なってしまった。私の場所も、もう、ない」

 

淡々と話しているのにも関わらず、どこか悲鳴のような言葉が響いていく。

そして女は誰も聞いたことがないような言葉を紡ぎ出した。そして長い、長いその詠唱が終わったあと、女は自分を見続ける者たちを見て、いつかと同じように強い瞳で言った。

 

「この国を滅ぼしたのは私。その力はまだ私の中に宿っている。あなた達に……」

 

女は言いかけて言葉を飲み込む。

そして静かに頭を振った女は、涙を流したまま、黙る。誰もが女の動向を見守る中、全てを振り切るように女は空を見上げ、手を伸ばす。何か掴もうとしたのか分からない。けれど女は悲しげに笑うと、立ち尽くす者たちを見て頭を下げる。

 

「さようなら」

 

光を放ち始めた手を眺め、そして腕に抱く骸を見るとどこか嬉しそうに笑って、そのまま光る手を自身の胸に当てた。

 

 

「     」

 

 

女は呪を唱えた。誰もが聞いたことのなかった、見たことのなかった呪文。

大地のうねりが底から響き、風が吹き荒れる。砂埃に覆われる視界がいま起きていること全てを覆いつくしていく。骸も、女の鮮やかな金髪も、この現状に似合わないほどに晴れ渡る空でさえも視界から消えていく。きっとそれでよかったのだろう。立ち尽くす彼らの目前を、全てを超越した存在が横切った。なにかよく分からないソレが、呆気にとられて立ち尽くす彼らの手の届くギリギリのところまで訪れて、その存在を地面に刻み込むようにして……去った。

その存在が“なに”かだなんて知らない、知っているはずがない。しかし彼らはソレに恐怖した。足元に視線を移せば、そこから一歩でも前に出ていたなら死んでいたであろう。えぐられた地面が存在していた。

一瞬の出来事だった。

その場に居合わせた者達は声もなくその光景を見入る。風が吹き止み開けた視界に映ったのは──抉られた地面を境に、骸も、瓦礫も、女さえも消えてしまった荒野だけが広がる場所だった。

ふと、涙を流した美しい女を思い出す。

あの涙はいったいなにを思って流されたのか。声無き叫びとなって、どこへと行くのか。

 

「っ……!」

 

空から小さくて白いものが振ってきた。風が甘い香りを運んでくる。……ラシュラルの花だ。花は雪のように人の肌に触れた瞬間形を無くして、まるで涙のように伝っていく。空から落ちてきたそれは溶けて大地と交わり、かけ離れた存在同士をつなぎ合わせていた。

誰かが言葉にならない声を上げる。空から降り注がれたそれが大地に溶け込んだ瞬間、小さな芽が出てきたのだ。何個も、何百も、何千も芽生えたその命は目にも止まらぬ速さで成長し、あるものは木へと、あるものは花へと育っていった。荒野は気がつけば緑溢れる豊かな土地へと変わった。

後に彼らはここに国を立ち上げる。

最初は小さな村のようなものだったが、時の速さと同じくして目覚しい発展を遂げ、百年後には人があふれ栄える強国へと成長した。

 

その国の名は──ラミア。

 

 

 

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ラミア建国歴史 第一部

 

女、イグリティアラ=メルビグダ=ラディアドルの消息は不明。死んだものと思われる。

女が腕に抱いていた骸は、一時身を隠していた折、知り合った男という説が有効。尚、この男の出生の村は、当時の皇帝アガサル=メルビグダ=ラディアドルの命によって滅ぼされた。村には強力な守りの魔法があるため、その後、誰もその地を侵すことはできなかった模様。現在もその場所の発見は報告されていない。早急にこの村の発見に務めること。この場所は報告どおりならば、守人を配置すべき。闇の者の発生に備えること。

ラミア国創設にあたり“彼ら”の働きは目覚しく、異常な速さで国を創り上げたことから、女が“あなた達”に望んだことは国の再建だったのではないだろうかという説がある。

ここに記した記録は実際に忠実に作られている。

 

 

尚、この記録は秘密裏に保管すること。

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

最後まで読んでいただき、ありがとうございましたっ!

重たい……ドシリアス……悲しい……。でも作者はこの話がとても好きです。書きたい内容が詰まっています。

 

拙い文章ながら、なにか皆様に伝われば嬉しく思います^^

もし関連した話が気になるならば、よければシリーズ「ラシュラルの花」に掲載されている小説もあわせてお読みください。

救いが欲しい人は特に。狂った勇者が望んだことでお待ちください。

 

最後までお付き合いありがとうございました。

 

 

 

ラシュラルの花シリーズ2つめ 途切れた物語【完】

 

 

 

 

 

 



 

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最後までありがとうございました!