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閑話04イメラ、村長に許しを請う

 

 

 

村長とイメラとロイのお話

 

 

 

 

 

 

 

 

「なんじゃい騒がしいのう」

「本当にねえ」

 

 

椅子に腰掛けた老夫婦は風が運んできた耳慣れぬ騒々しい声に首を傾げる。はて、おかしい。……もしかすると旅人が来たのだろうか。それにしてはなにやら不穏な空気を感じる。

老夫婦は顔を見合わせたあと、手に持っていたお茶を飲む。考えてもしょうがない。旅人ならば村人がここまで連れてきてくれるだろうし、なにより動くのがしんどいのだ。腰痛い。

 

──ここは旅人も滅多に訪れない山奥にひっそりと建つ村、ディバルンバ。

 

森に囲まれ近くに川もあるため、最低限の食料もなんとか補えるので不便は不便だがそれなりに楽しく生きている。慎ましやかに生きる村の住人は大体穏やかな気質で言い争いなぞほとんどない。子供たちが村の端から端を走り回ってはしゃぐ以外には、騒がしすぎる子を叱る母の声、それを見て笑う声が聞こえるぐらいだ。

風が吹き、カーテンがひらひら揺れる。

やはり旅人らしい。複数の足音が近づいてくる。老夫婦はお茶を飲むのを止めて扉を見つめる。聞き慣れた男性の声は丘に住むロイの声だ。珍しいことに声を荒げてはなにか諦めたように言葉をきっている。そして、聞き慣れない声は女性の声だ。ロイの感情をここまで乱れさせている女性の声は楽しそうに弾んでいて、明るい。

いやしかし、おかしいことよ。旅人が来るのは1年に1度くらいのものなのに、今年でもう3人目だ。

 

 

「おいじいさん!断れよ!!」

「ちょっと!」

 

 

扉が開いた途端大きな声でそう言ったロイに、ロイの身体に隠れている女性が咎める。

やれやれ元気なことだ。

 

「これロイ。なにを言うとるんじゃ」

「ロイちゃんは相変わらず挨拶もできないんじゃねえ」

「プッ!ロイちゃん!」

「てめっ!イメラッ!笑うんじゃねえよっ!!」

「ふふ、しょうがないじゃない」

「はあ」

 

楽しそうに笑う女性の声にあわせて黄金に輝く美しい髪が揺れる。なんとまあ。

手入れが行き届いているのだろうその髪は長くユラユラユラユラ光を乗せて輝く。口元を覆う白い手がなにかに気がついたように離れて、女性の顔が老夫婦に向く。

 

「あら、まあ……っ」

 

老女が驚きに目を見開く。大きく開いた口は声を失った。

イメラと呼ばれた女性は、一瞬人間ではないかのように感じた。細部まで造られたようにすべてが美しい。小さな顔にはめこまれたパーツは均等で寸分の狂いもない。しかし、瞬きのうちに消えてしまいそうな儚げな雰囲気をもつのにどこか人間臭い。それに妙な違和感を覚え、余計言葉を失う。

青空のような蒼い瞳は大きく、こちらを見て微笑む唇は淡い赤に彩られ弧を描いている。血が通っていないような白い肌だが、いまは少し浮きだっているのか頬が朱に染まっている。細い身体を覆うような金色の髪は陽の光で眩いばかりに発光している。

ついにお迎えが来たのだろうか。

思わず老女はそう思ってしまった。隣では長年連れ添った老男が驚きにのけぞったためか椅子ごと倒れている。息をひきとっていたとてさほど驚きはしない。

 

「おい、じいさん大丈夫か!」

「村長さん!」

「お前のせいだぞイメラ!お前がこの村に住みたいとか言うからだっ」

「なによ!それにまだその話村長さんにしてないわよ!」

「許可するっ!」

「は?」

 

ロイの手で起こされた老男は頭をふったあと、くわっと眼を開いて叫んだ。呆気にとられるロイとイメラに気をとられることなくしっかりとした足取りで立ち上がった老男は、2人を見下ろしたあと親指をたてる。

 

「この村に住むことを許可するぞ」

 

イメラを見てにっこり微笑んだ老男に老女はやれやれと肩をすくめる。

 

「やったわ!村長さんありがとう!!」

「だーっ!くそ、この女好きじいさんめっ!」

「これっ、人聞きの悪い。わしは若い女の子といるのが好きなだけじゃわい。増えるの大歓迎」

「あー……はあ」

 

上機嫌のイメラと老男は2人で握手をして楽しそうに上下に振っていて、ロイは頭を抱え込んでいる。老女は賑やかな光景に微笑を浮かべる。

ロイが連れてきたのだからイメラの面倒を見るように、と老男が話をしたときのロイの顔はなかなか見ない顔をしていた。面白い。イメラちゃんも楽しそうだ。これから村が明るくなるかもしれないのお。

老女は少し浮き足立つ心を治めるようにお茶を飲む。

 

 

「だが、おかしいのお」

 

 

老女は視線が合ったイメラが微笑むのに同じように微笑みながら、コップを置いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



 

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