もしも梅が一緒に召喚されていたら02

 

 


この世界に召還された1人が火の魔法を暴走させた騒動はこの世界の人間の期待と嘲笑と傍観に見送られて終わった。
疲れて指示された通りに動く”勇者たち”。小間使いに部屋とやらに案内されるまま動く。

 

「……なに」
「お連れ様はお召し物の替えをされたほうがいいでしょう。別の部屋をご案内します」

 

小間使いの男が部屋の扉を開けたから、桜と一緒に入ろうとした。なのに男が控えめに前に手を出して制する。
小間使いの女は桜に「部屋を別にご用意しております」と言う。

 

「別々の部屋なんて必要ない」
「ですが」
「私の彼氏なんだから!急にこんなことになって、なんで別々なの!」

 

小間使いの男と女が目を合わせる。妙な沈黙だった。そして、嫌な沈黙だった。

「お着替えが……」


「そんなの後にして!少し2人きりにさせて!」
「……失礼します」

 

2人が頭を下げた瞬間桜の手をひいて部屋の中に入って、ドアを閉める。しばらくして足音が離れていくのが聞こえた。
そして音が聞こえなくなったのを見計らって、桜が呆れたように言う。

 

「どんな設定」
「ヒステリックな彼女とそれを受けいれる彼氏」
「……まあ、そのほうがいいわな」

 

この世界の人間は桜のことを男だと認識しているみたいだから、そのままで通すことにする。
女であることが不穏な響きのするこの世界では騙せるならこのままでいるべきだ。

折角だから私は桜の彼女ってことにして地盤を固めておく。我侭でヒステリック気味な彼女だと認識されたら、多少の行動に注意を向けられることもないだろう。

 

「なんか、なー」
「ねー」

 

大きなベッドに座ると、桜もベッドに腰掛けて倒れこむ。ところどころ焦げたジャゲット。腕にも火傷を負っていたけれど。

 

「治癒魔法をかけにきた子」
「可愛かったね」
「そうじゃなくて、違和感」
「だね。私たち勇者のことを観察してたわりにあの態度、変だよ」
「梅を守ろうとしてた奴」
「妬かないで私のダーリン」
「はは」
「……別にいーもん。ん、あいつらも変。気持ち悪い」

 

騒動が起きた瞬間、私ともう一人の女の子だけを守る甲冑の男達。男だと思われていた桜を含めて他の男子は守ろうとしなかった。魔法を暴走させてるらしい男子を助けることさえしなかった。
ただ見下ろして傍観してたんだ。男女の扱いの差異が、凄く気持ち悪い。

 

「思いっきり突き飛ばしてたな」
「邪魔だったもん」

 

炎に包まれる男子を救おうと一つの謝罪とともに走ってジャケットを男子に被せて炎を消そうとした桜。
私としては男子よりも桜が危ない目に遭ってしまうことが許せないけれど、桜が望むなら邪魔しない。

私もなにか手伝えればと思って後を追おうとしたら、甲冑の奴らが「危ない」と邪魔してきた。本当に邪魔だった。だから隙を見て突き飛ばしたんだっけ。

痴漢で鍛えられた技舐めないで。

考えてることが大体分かったのか、私の顔を見ていた桜がしょうがないなと笑う。頭も撫でてくれたもんだからご機嫌だ。

 

「勇者だって」
「前したゲームみたいだね。痣ないけど」
「だな」
「……気に入らないなあ」
「だな」
「ふざけないでほしい」
「だな」

 

桜が体を起こす。なんだろう?不安。怒り。不愉快。希望。責任。決意。色んなものが感じられる。

 

「大丈夫」
「……うん」

 

頭を撫でてくる手が気持ちよくて目を瞑る。

 

「今すぐには無理だろうけど、帰ろう」
「うん」
「その為に力つけないとな」
「うん、桜」
「なに」
「大丈夫だよ」

 

抱きついて背中をぽんぽんと叩く。すぐに抱え込むのは悪い癖だ。私のことでもそれはなるべく止めてほしい。それに私は別に帰れなくてもいい。

桜がいるなら別にいい。

桜は帰りたいんだったら私も手伝う。
胸から顔を離して桜の様子を窺ってみれば、目をパチクリさせて首を傾げてる。可愛いなあ。
唇つりあげて微笑む。綺麗な表情。

 

「だな」
「うん、サク」
「ん?」
「私の彼氏でしょ?愛称が必要じゃない?」
「いらねえだろ」
「ねえねえ!私のは!?私のはなに??」
「あー五月蝿いーあー」
「サクひどい!」
「じゃあ梅子で」
「梅子……いい」
「いいんかい」

 

どうせ適当に言ったんだろうけれど、悪くない。ああやっぱりどこでも桜がいれば大丈夫なんだ。

 

 

「サーク」
「なんだ、梅子」
「いやあああああ!」

 

 

ほら、楽しくてしょうがない!

 

 

 

 

 


 
──もしも梅が一緒に召喚されていたら 完「大丈夫」

 

 

 

 

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