とある勇者の日常その2

 

 

 

「わー今日も学校来たよ」
「うける。強いねー」

 

登校してすぐ感じた視線、そして隠そうともしない大きな声で笑うクラスメイトが見える。なにも考えない。なにも、感じない。
席について1限目の教科書とノートを用意する。前に一度机の中に教科書とかノートを置きっ放しにして痛い目にあった。1限目ずつ用意しなきゃ。

 

「ねーおっはよー」
「……おはよう」
「え?なに!?聞こえないんだけどっ」
「ひっどーい!」

 

つい最近まで仲良し、というより一緒に居たクラスメイトの女の子が笑いながら机を蹴ってくる。なにも考えない。なにも感じない。
目の前の席についた彼女達は私の存在を無視しながら楽しそうに話し出す。

 

「なんかさ、さっきまで普通だったのに急に空気悪くなったよね」
「ねー。誰か来たからからなー?」
「ねー。本当、なんで来るんだろうねー!」

 

LINEを触りながらこちらを窺ってくる。視線が合えば、満足そうに笑う。

 

「おらっ、無視すんじゃねえよ」

 

思い切り机が蹴られて身体にぶつかる。視線を起こせば、見ないでと言われる。

 


なにも考えるな、なにも感じるな。

 


笑いが伝染して異様な空気が充満する。ああ、気持ち悪い。でも私が悪いんだ。私がちゃんと話を合わせられなかったんだ。ちぐはぐな答えを言うから、おどおどするから、愛想をつかされたんだ。
私が悪いんだ。

『ねーLINEしてるー?教えてよ』
『あ、してないの……と、登録するね!』
『あの人マジかっこよくね!?そう思うっしょ!』
『そうだね』
『……ね、告られたってマジ?』
『えっと』
『あーもういい』
『……』
『返信遅いよね。既読無視?ウケルんですけど』
『違うよ!ただちょっと時間がかか』
『そういえばさー』

 

私が悪いんだ。
私が間違えた。

 

「ねえ、アンタ。明日どうせなんも予定ないよね」
「え」
「よっし決定!アンタ11時に駅前に集合だから。新しくできた喫茶店前。分かるよね?」
「は、い」
「ぜってー来いよ」

 

マニキュアを塗った綺麗な人差し指が机の一部分をとんとんと指す。死ねよ。よく見ないと分からないぐらい小さく彫られた文字。

私が悪いんだ。

だから、しょうがないの。

 

 

 


「──ここ、だよね」

 

待ち合わせ時間より早めに駅前に着く。誰も居ないことにやっぱりかと思いながらも安心した。居たら居たでなにがあるか分からない。

 

……なんで私ばっかりこんな目に遭ってるんだろう。

 

ぼおっと空を眺める。綺麗な青空。色んな人たちが歩いてる。賑やかな楽しそうな声も聞こえる。はしゃぐ子供達の声、コロッケの匂い、鼻をくすぐった柑橘系の香り。これは香水かな。

視線を辿れば淡いマロンの色をしたウェーブを描く長い髪が見えた。横顔しか見えなかったけれど凄く綺麗な人だった。誰かとデートなんだろうか。凄く幸せそうな顔をしてた。

いいな。羨ましい。

私も友達と楽しく遊んで、休日には彼氏と一緒にデートとか、そういうことしたかった。
なんでこんなことになったんだろう。

 

「ぃ、や!」
「おーいいじゃんいいじゃん!まあまあいけるっしょ!」

 

突然腕をひかれる。近くで聞こえた男の人の声。笑う顔が何人も見えた。
戸惑っている間にも引っ張られて、路地裏が見えてくる。ぞっとして踏ん張れば物凄い力で腕を握り締められた。

 

「騒ぐんじゃねーよ」
「な」

 

辺りを見渡す。こんなに人が居るのに誰も視線を合わせてくれない。あんなに人が居たのに、どんどん見えなくなっていく。
暗い路地裏。
視界を囲っていく男の人。

 

「流石にヤバくね?」
「どこが?」

 

携帯を取り出して私に向けてくる。……動画?合わせて伸びてくる手に恐怖を覚える。

 

「恨むんなら里亜を恨むんだな」

 

それを言えば自分がしていることが許されると思っているのか、男は笑って顔を近づけてくる。
里亜、私のこと、そんなに、嫌い?
『これからよろしくねー!』
『お揃いにしよっか!』
私が悪かった?悪かったんだよね。でも……ああ。

 

 

「全部消えちゃえばいいんだ」

 

 

最初からなかったことにするんだ。ぜんぶ壊れればいい。なくなればいい。消えてしまえ。
ぜんぶ。

──突然、腕に続いていた痛みが消える。

なにも見たくなくて瞑っていた目をそっと開ければ真っ赤な絨毯が見えた。そして、近くに呆然と立っている、さっき路地裏にいた人とは違う人たち。

ここ、どこ?

離れたところに変な格好をした人たちがいる。赤い絨毯の上に靴で立っているのが落ち着かなくて移動すれば、変な音。石畳だ。

 

「え。え?私、いや、なにこれ」

 

さっきとは違う気持ち悪さと居心地の悪さがこみ上げてくる。
私と私を苛める里亜たちを遠巻きに見ていたクラスメイトが話すように、独りよがりの興奮があちこちからのぼっていく。歓声、落胆、囃し立てられて、ああ、なんだろう。

もう嫌だ。

もう、嫌。嫌。嫌。

 


「──あなたは素晴らしい力を持っています。あなたに眠る魔力はこれから開花し、あなたを守るようになります。勿論私もあなたをお守りします、加奈子。
あなたに会えてよかった」

 


優しく優しく手をとって口付けてくれたシュルト。光に当たって輝く綺麗なブラウンの髪。思わず手が伸びて触ってしまう。この人は私を苛めない。一緒にいてくれる。
でも、なんでかな。黒い髪じゃないことを、凄く、悲しくなったの。

 

 

「──あなたと共に」

 

 

抱きしめてくれる手に、体温に、安心したの。でも、悲しくてしょうがなかった。
消えてしまえばいいのに。
ぜんぶ。

 

 

 

 


 

──加奈子の場合。

 

 

 

 

 

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