その前…「逆鱗に触れた男」

 

とある勇者たちの召喚される前、召喚された後。

暗く、●●についての軽いネタバレ?

 

 

 


 

 

今日は顔を見ずに済んだ一日だと思ってたのに、よりによって2人一緒に話している姿を見つけてしまった。

瞬間背筋がぞっとして、汗が伝う夏の暑さが嘘のように寒さを覚えた。
顔が青ざめてるんだろう。友人が眉を寄せて俺の様子を見たあと、俺の視線の先にいた2人を見つけて分からないと首をひねる。

 

 

「お前、なんでそんな……」

「うるせえ。早く行くぞ」

「なんかなあ」

 

 

あの2人に気がつかれないように、不自然を感じない態度を心がけつつも急いで角を曲がって隠れる。楽しそうな笑い声。

いつかはその声が好きで好きでしょうがなかった。

声が聞こえるだけでその日は有頂天になったし、話すことがあろうもんなら嬉しすぎて頭が沸騰した。

だからだ。

だから俺は馬鹿なことしてしまったんだ。

声が徐々に聞こえなくなる。人ごみに紛れて2人の姿ももう見えない。
大丈夫だ。気がつかれてない。大丈夫。

 

「お前さ、なんでそんなあの2人のこと怖がってんだよ。変だぞ」

「五月蝿いってんだろ」

「つかお前先月と態度違いすぎ。なにが「五月蝿いんだよ!」

 

友人は驚いたように目をぱちくりさせたあと、付き合ってられないとばかりに背中を向ける。

見届けたあと、震える身体が支えきれなくて座り込んだ。

 

「梅、携帯私が持ってたぞ。おい、聞こえてるかー?」

 

遠くにいる人を呼ぶように、その声は聞こえた。ならもう1人はどこにいるんだ。それよりも通り過ぎたんじゃなかったのか。

暗い路地裏に、突然、ジャリと故意に鳴らされた音が聞こえる。

 

「……あ」

「久しぶりだね」

 

真正面から顔を見たのは久しぶりのような感覚だった。蜂蜜色の髪が暗い路地裏なのに光っているような気がする。
大きな瞳が弧を描いている。形のいい唇はほんの少しだけ緩んでいて、とても、とても可愛い。

前は触りたくてしょうがなかった。

白い肌。柔らかそうな膨らみ。
手を伸ばして、波打つ髪に指を絡めてみたかった。

 

 

──今は恐ろしくてしょうがない。

 

 

「ふうん。その様子じゃ、またつけてきたわけじゃないんだね」

「違う!」

「喋らないでくれるかな?聞きたくもないし、桜には聞かせたくもない」

 

少し低いだけで、いつもと変わらず耳に優しい可愛い声。

なのにもう俺は顔を見ることさえできなかった。ただただもう俺のことを見ないでほしかった。

すぐさまここから立ち去ってほしかった。

 

 

「お願いだからその顔もう見せないでね」

 

 

きっと笑ったんだろう。
俺は無言で何度も頷いてみせる。顔は見せられないし、声も出せれないから、信じて欲しくて馬鹿みたいに首を上下に振った。

足音が離れていくのが聞こえた。

 

「お前なにやってんの」

「べっつにー!行こ!桜!」

 

声が離れていく。本当に、今度こそ2人はどこかへ行った。息が吐けて落ち着く。

手が左肩を抑えていたのに気がついた。一部少し膨らんだそれはようやく肌に馴染んできた。抜糸も終わったいまは周りが紫に色づいた肌が目につくだけで、もう血も出てなければ痛みもない。
それでも治ってはいないのか時々疼く。

『いいから、黙って、行け』
頭に響く優しく、けれど低い声。

 

見下ろしながらそう言ったあと表情を一変し、ふわりと微笑んだ彼女。手に持ったカッターが真っ黒に濡れていた。手に流れ着いても彼女はまったく表情を変えず、いつ俺が動くのか、じっと見ている。

ああそうだ、早く行かなければ。

そうだ、早く……!

 

 

「おい!おい、大丈夫かお前!?」

 

 

耳元に五月蝿い声が聞こえて目が覚めた。汗を額に浮かべる友人は俺を見下ろしながら携帯片手にひどくうろたえていた。どうやらあれからまた戻ってきたらしい。

俺は、寝てた?気絶してたのか。

大丈夫。気にすんな。熱中症かな」

 

 

「危なすぎだろ。ほら、水。あー焦ったー」

 

 

渡されたペットボトルの蓋を開けて水を飲む。冷たい水が喉を通って胃に流れていく。

冷たい。

 

「お前さ」

「なんだよ」

「……俺、水よりコーラが好きなんだけど」

「贅沢言ってんじゃねーよ」

 

頭を殴られて、笑う。

人を殺せって言われたことがあるか?

聞けなかった。

目を閉じれば微笑む彼女の肩から波打つ蜂蜜色の髪が滑り落ちるのが見えた。

 

 

 

 


 

──さてどちらの逆鱗に触れてしまたったのでしょうか。

 

 

 

 

 

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